回送電車の女 第三部
七十五
「それじゃ、貴方もK電鉄の回送車両に乗せられたのね。」
「貴方もって・・・。良子さん。良子さんもK電鉄の回送電車に乗せられたの?」
「ええ。私の場合は真昼間よ。」
「やっぱり。私以外に昼間のK電鉄で目撃された女性は良子さんだったんですね。」
「ねえ、未央さん。貴方がK電鉄の車両に乗らされた日付と時間は憶えているわよね。私の時のと比較してみて、その両方であの回送車両を運転していた運転手が突き止められれば睦夫の協力者ってことになるわ。調べてみましょう。」
それまでO電鉄しか調べて来なかった良子がK電鉄の電車基地を訪ね、準運転手の新藤を突き止めたのだった。
「新藤さん。この写真の方、誰だか判るわね?」
「えっ。ああ、知ってますよ。磯貝睦夫っていうO電鉄の私と同じ準運転手ですよ。首都圏電車運行会社間の交流会で知り合ったんです。」
「運行会社間の交流会でですって? もしかして磯貝からK電鉄の回送運行用の鍵の事とか訊かれなかった?」
「え、どうして知ってるんです? ええ、何でも会社のセキュリティに関するレポートで参考にしたいからって一度訪ねてきたんですよ。俺の回送運行予定なんかも根ほり葉ほり聞かれて。」
「やっぱりそうだったのね。あいつ、K電鉄の合鍵を持ってるんだわ。」
「え? ウチの会社の合鍵?」
「そう。貴方はあいつに共犯にされかけたのよ。」
「え、共犯って・・・。何の?」
細かい事情は後で教えるからと言って、良子も新藤の回送運行予定を詳しく聞き出す。その上で、未央との間の密約計画が実施されたのだった。
「もう終わりにして欲しいだと?」
「ええ。だからもう一度だけ私のマンションで貴方の言うことを聞くから、それで最後にして欲しいの。」
「ふうん、そうかい。じゃ、お前のサービスの仕方次第では考えてやってもいいかもしれんな。お前が真剣にサービスしてくれればの話だがな。」
未央の申し出を、睦夫は最後にしてやるつもりなどこれっぽっちも無いのに聞いてやる振りだけしたのだった。
(ふん。誰が終わりにしてやるもんか。お前のサービスの仕方が足りなかったんだと言えば済むだけの話じゃないか。)
そう考えて睦夫は未央のマンションを訪ねることにしたのだった。
マンションの入り口の暗証番号はもう変えてあったが、睦夫がエントランスホールで未央に電話すると、未央は中から入り口の扉を解錠したのだった。
「今日も手料理をたっぷりご馳走して貰うかな。まずはこの前のように全裸になってエプロンだけ着けるんだ。」
「わ、わかりました。何でも言うことを聞きます。ですから約束ですよ。」
「ああ、お前のサービス次第だって話しな。早く脱げよ。」
未央はエプロン一つを取り上げると服を脱ぎ始める。
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