不審がる良子

回送電車の女 第三部




 五十

 良子は山中で強姦された女性の事件より、自分自身の身にふりかかった強姦事件のほうが気に掛かっていた。あの日、あのタイミングで自分が強姦犯の手に堕ちるというのがどう考えても不自然だったからだ。
 あの人通りが少なく明かりも多くない夜の公園が痴漢が常習の場であった可能性もなくはない。しかしあの日、あの時間に良子が一人で来ることを予め知ることは相当難しい。良子も薄々スタンガンのようなもので襲われたに違いないと思っていた。しかしそうだとすると準備周到な犯人ということになり、良子が来ることを知っていた筈だ。そうなると良子に通報の電話を掛けてきた女性が共犯である可能性が著しく高くなる。
 そこまで考えて、あの電話が夜の回送電車に乗せられた被害者を騙っていたこと、良子自身は夜の回送電車に関して嗅ぎまわっていて磯貝睦夫と知り合ったことから、あの二人がどこかで接点があると考えるのが順当だと思われてきたのだった。
 その時、ふと八王子山中の強姦事件で犯人は女警察官を装った女性と刑事を装った男の共犯だったらしいことが頭に浮かんだ。
 男と女が共謀してある女性を罠に嵌め凌辱する。この二つの事件が関係があるとまでは言い切れないが、そう考えれば二つの事件とも説明がつくことが次第に見えてきたのだった。
 これは何としてももう一度、О電鉄の準運転士だという磯貝睦夫を問い詰めねばならないと良子は思ったのだった。

 「そうですか。運転中ですね。それじゃ、携帯に出ることも不可能ですよね。でしたら新条署の水野という者が伺いたいことがあるので連絡が欲しいとだけ伝言頂けますか? ・・・。そうですか。よろしくお願いいたします。」
 電話を切った良子は磯貝睦夫が業務中であることで、折り返しの連絡を同僚に頼むことにしたのだった。磯貝睦夫が自分を襲った犯人である証拠は何もない。しかし限りなく怪しいのも事実だった。逢って問い詰めれば何らかの手掛かりを掴めるに違いないと良子は思ったのだ。

未央

  次へ   先頭へ



ページのトップへ戻る