回送電車の女 第二部
三十二
未央は裾の短いチャイナドレスで脚をぴっちりと合わせて裾の奥が覗くのを防ぎながら大物ゲストに寄りそうようにする。そしていよいよ最後の番組終了の挨拶で衣装を着替えたところでカメラが未央に寄る。その一瞬、未央は台本を床に取り落とす。
それは本番中に台本を取り落として慌ててしゃがんでしまったと誰にも思わせるような咄嗟の行動だった。未央のスカートの裾が割れてその奥が覗いたと思った瞬間にコントロール室のチーフディレクターがカメラを切り替えるように指示する。
パンチラが映ってしまうとカメラを慌てて切替させたディレクター自身も、元のカメラの映像に釘付けになっていた。
(あれっ・・・。まさか、あれ。ノーパン?)
画面では男性MCが番組の終了を告げていた。
「それじゃ、最後にアシスタントを長年務めてくれていた小林未央ちゃんにも挨拶して貰いましょう。」
カメラがすでに椅子に座って膝の上に片手を乗せた未央を映し出す。
「皆さん、長い間声援くださってありがとうございました。またどこかの番組でお逢いしましょう。それではごきげんよう。」
「はーい、カット。CMに切り替えて~っ。」
ディレクターの番組終了の合図が未央のインカムにも聞こえてきた。
「お疲れ様でした。」
「未央ちゃん、お疲れっ。」
ディレクターもコントロール室から出てきて未央に挨拶する。しかしそれだけではなく未央に近づくと小声で耳打ちしたのだった。
「危なく放送事故になるところだったよ。すぐカメラ切り替えたから大丈夫とは思うけど。」
「あ、やっぱり映っちゃいました? でも今日はそういうのに備えて肌色のガードル穿いてきたのでパンチラには見えなかったですよね?」
「あ、ガードルだったのかあ。ああ、大丈夫。あれなら放送事故にはならないだろう。万が一、ネットなんかで炎上したら『アシスタントの小林未央。ベージュのガードルであやわの放送事故回避!』って記事、サクラで流しておくからさ。」
「あ、お願いしますね。ディレクター。」
そう言ってウィンクしてみせる未央だった。
次へ 先頭へ