回送電車の女 第三部
六十三
「シートベルトは俺が嵌めてやるよ。」
運転手にはなぜ自分でシートベルトが留めれないのか気づかれてしまうと思いながらも、何か言えば余計に気づかれてしまいそうで、未央は睦夫がするままに任せるしかなかった。睦夫は未央が何も手を出せないのをいいことに、未央の身体の向こう側のシートベルトを掴む際にわざと未央の胸の膨らみを触っていく。そしてベルトを引っ張って未央の腰の前を通す際には今度はわざとスカートの上を触って裾を少し引き上げてしまうのだった。そんな事をされても未央には何も出来ず声に出すことも躊躇われたのだった。その時初めて、未央は睦夫とタクシーに乗ったことで睦夫にやりたい放題のことを許してしまうことに気づいたのだった。運転手に気づかれないようにする為に抗議することすら出来ないのだった。
「お前のアパートは何処だったっけな。」
睦夫が知る筈もないので、未央は自分で場所を運転手に告げる。車が走り出すとすぐに睦夫の手が膝の方に伸びてきた。背中の手で抱えていたショルダーバッグも奪い取られ二人の間に置かれた為にその陰で睦夫はやりたい放題手を伸ばして未央の太腿をまさぐるのだった。
「ほう。アパートだと思ってたが、結構いいマンションじゃねえか。」
タクシーが未央が越してきたばかりのマンションの前に停まると睦夫は勝手に未央のショルダーバッグを漁って財布を取り出し、そこから支払って先に出る。未央は再び後部座席の床の膨らみを跨いで渡らねばならない。しかし今度は運転手が未央の様子に途中で気づいたらしくしっかりと後ろを振り向いて未央が出て行く様子をまじまじと眺めている。未央はもう多少は覗かれても仕方ないから一気に飛び出ることにした。運転手は途中から未央が両手を何かのせいで自由に出来ないことに気づいていた様子だった。
「ありがとうございました。」
運転手は乗車してくれたことではなく、いいものを覗かせて貰いましたと言わんばかりに未央にお礼の言葉を発したのだった。
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