回送電車の女 第二部
三十
「水島先輩。これなんですけど、どう思います?」
良子は後輩で生活安全課の同僚、速水が持ってきたネットからコピーしたという写真を渡される。
「うーん。確かに裸の女性が乗っているわね。これ、結構小さいものを拡大したんでしょ?」
「あ、ええ。拡大もこの辺が限界かなと思います。」
「合成写真ということはないかしら?」
「この辺に詳しいやつによると、これは動画のスクショらしいっていうんですよね。」
「え、スクショって何?」
「先輩、知らないんですか? ま、俺も本当はそいつに教えて貰って初めて知ったんですが、スクショってのは動画とかの画面をそのまま静止画でコピーしたものを言うようです。スクリーンショットの略らしいんですが。で、元が動画だとすると合成した可能性は低いって言うんです。勿論、動画も合成出来ない訳ではないらしいんですけど、かなり高度な技術が必要らしくて。」
「ふうん。で、何処で撮られたか分かりそうなの?」
「ほら、ここに微かに文字があるのが見えるでしょう。完全には読めないけど、これってK電鉄のロゴに違いないって言うんですよ。私もそう言われて本物を見てみましたが、確かに色使いとかロゴの大きさとかそっくりなんですよ。」
「え、K電鉄? О電鉄ではなくて・・・?」
「え? どうしてО電鉄だと思ったんですか?」
「あ、いや・・・。ただ、何となくそう思ってただけ。根拠はないわ。」
良子は咄嗟に自分がО電鉄のホームで似たようなものを見た話はせずに誤魔化した。
「撮影された時刻は特定出来ないの?」
「ああ、そこまでは・・・。鑑識課のデジタル専門家に頼めば分析して貰えるかもしれないですけどね。ま、ここまでの情報じゃ、事件性があるとは言い切れないですからね。」
「そうねえ。公然わいせつ罪ぐらいじゃ、鑑識もそこまで動いてはくれないわよね。ま、分かったわ。また何か新たなものが出てきたら教えてね。」
「ええ、分かりました。でも、先輩。何で、そんなにこの件についてこだわるんですか?」
「それは・・・、同性として気になるからよ。もしこの女性が強制的にこういう格好をさせられたのだとしたらの話だけど。」
「なるほどね。でもアダルトビデオのロケだという線もまだ捨てきれませんよね。その場合だったら、女性はプロってことになって被害者とは言えませんね。」
「まあ、いいわ。また何か分かったらでいいから。引き続き情報だけは当たっておいてね。」
そう言って若い後輩から写真のコピーを受け取ると自分の机の抽斗にしまうのだった。
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