ENDING挨拶

回送電車の女 第一部




 十八

 <じゃ、エンディング入りま~す。未央ちゃん、2カメでーすぅ。3,2、1、キュー。>
 「そろそろお時間です。『今夜も夜更かしニャンニャン』、最後まで見てくださってありがとうございました。それじゃ、また明日~。」

 未央が2カメの方に向き直って、片手で膝の上を抑えながらもう片方の手で手を振る。
 <はい、カットー。CM、入りまーす。お疲れ、未央ちゃん。>
 「あ、お疲れさまでしたぁ。」
 耳からインカムを外すと膝に手を当てたままアシスタント席から未央が立ち上がる。その未央に向かって飯島ディレクターが近づいてきた。
 「あ、飯島さん。大丈夫だったでしょうか?」
 「え、何が・・・。ああ、数字だったら今日は持ち返したよ。やっぱりこの番組は未央ちゃんが居ないとね。」
 「そ、そうですか。じゃ、クビにはならないんですね。」
 「ああ、勿論。だけど、遅刻とかドタキャンはしないでね。よろしくぅ~。」
 視聴率が大分戻ったことでプロデューサーはご機嫌な様子だった。未央は途中で放送事故になるようなパンチラがあったのではないかと心配して訊いたのだったが、プロデューサーは視聴率のことしか気にしてない様子だった。
 そろそろ帰ろうかと支度をしているところに熊谷という別のプロデューサーが未央の居る控室に顔を見せる。
 「あ、未央ちゃん。ちょっと・・・。」
 「あれっ。どうしたんですか、熊谷プロデューサー?」
 「ちょっとね。」
 熊谷は未央のすぐ近くまでやってきてこっそり耳打ちする。
 「これは飯田プロデューサーには内緒なんだけど、例の『ニャンニャン』さあ。打ち切りになるかもしれないんだ。」
 「え? じゃ、やっぱり私が休んだせいで・・・。」
 「ああ、違う、違う。前から大分数字が落ちてきていてね。そろそろ企画自体を見直そうかって上層部が言い出して・・・。」
 「え? そうなんですか。」
 未央はやっぱり仕事を失うのだと思ってうな垂れる。
 「それでさ。君に今度、夕方の報道番組のお天気おねえさんをやって貰おうかって話が出てるんだ。」
 「え、わたしが・・・? 昼間の番組に出れるんですか?」
 「ああ、まだ内緒で正式な決定ではないんだけどね。だからさ、暫くは気をつけてて欲しいんだ。」
 「気をつけるっていいますと・・・。」
 「週刊誌とかスクープ写真誌とかってやつ。君はまだそんなに売れてないから狙われることは少ないと思うんだが、夕方の報道はウチの看板番組だからね。スキャンダルは一番不味いんだ。くれぐれも普段の行動に気をつけて週刊誌ネタとかにならないようにして欲しいんだ。」
 「そ、そうなんですね・・・。わかりました。気をつけます。」
 「まだ正式には内緒だからね。よろしくっ!」
 熊谷プロデューサーはそう言って未央の肩をポンと叩くと控室を出て行ったのだった。


 「ふうん。あの未央ってアナウンサ、こんな番組やってたのか。ただの視聴率稼ぎの際どいアングル専門の見せかけパンダじゃねえか。」
 未央のバッグを漁って、名前と仕事先を突き止めた睦夫はさっそく非番の日に録画しておいた『今夜も夜更かしニャンニャン』を観てみたのだった。
 「こんな番組のアシスタントで見せかけパンダをやってるぐらいだから、アナウンサとしては新米みたいだな。なのにあんな横柄な口、利きやがって。たっぷり懲らしめてやるかな。」
 睦夫はあらためてこの前録った未央の失禁放尿シーンの画像を観返しながら、どんな手でこの新人アナウンサをいたぶるか作戦を練るのだった。

未央

  次へ   先頭へ



ページのトップへ戻る