回送電車の女 第一部
十一
「静かにしてな。どうせ叫んだところでここじゃ誰にも声は届かないんだからな。俺はうるせえ女が嫌いなんだ。」
「うっ・・・。わ、わかったわ。声は挙げないからこれ、外してっ。」
「まだ始まったばかりなんだぜ。今夜はたっぷり愉しませて貰わなくちゃならないからな。」
男はそう言うと、剥き出しの未央の乳房を手のひらで包み込むと、指で乳首を挟み込む。
「あ、いやっ。わ、わたしを犯すつもり・・・なのね。」
「ふふふ・・・。」
男の意図を確信した未央はさっきから言いよどんでいた言葉を口にする。
「ねえ、お願い。その前に・・・。お・・・、おトイレに行かせて欲しいの。」
未央は恥ずかしさで顔赤くして俯かせながらやっとそう言い切った。
「ふうん。オシッコがしたいのか?」
未央は顔を俯かせたまま、悔しさに唇を噛みしめると首をゆっくり縦に振る。
「あとどのくらい我慢出来そうなんだ?」
「えっ? うっ、もう限界に近いわ。さっきからずっと我慢してたの。」
「そうか。それなら好都合だ。」
「えっ? どういう意味?」
睦夫は思ったより事が早く進んでいくのに驚いていた。女が尿意を催すまでかなり待たねばならないと思っていたからだ。
睦夫は急いで持ってきた袋の中から三脚に取り付けてあるビデオカメラを取り出すと女から少し離れた位置に据え付ける。女を吊っている手錠の片方に手錠の鍵を差し込んで回す。
「お願いっ。急いでっ・・・。」
手錠を外して貰えると思った未央は男に急ぐようにせがむ。しかし睦夫がしたのは外した片方の手錠をその吊り革の輪に掛けてしまうことだった。
「えっ?」
自由になったと思った片手を男の手ががっしりと掴むと新たな手錠がその手首に掛けられてしまう。
「な、何してるの・・・?」
新たに手錠を掛けられた手首がぐいっと男に捉まれたまま引かれると万歳の格好をさせられる。
「やめてっ。何するつもり?」
ガチャリという非情な音が聞こえた。それは新たに掛けられたもう片方の手錠が通路の反対側の吊り革に繋がれたことを未央はすぐに悟った。
「と、トイレに行かせてくれるんじゃないの・・・?」
絶望的な気持ちになりながら悲痛な声で未央は叫ぶ。いきなり未央の顔面からアイマスクが毟り取られた。薄暗い車室内に目が慣れてくると、自分の真正面に三脚に載せられたカメラが自分の姿を捉えようとしていることに気づく。そのカメラの右上の端には赤いランプが点いている。それはそのカメラが録画中であるのにビデオカメラを見慣れている未央にはすぐに分かった。
「ち、ちょっと、これっ・・・。まさか、わたしを撮っているの? やめてっ、そんな事。」
しかし未央の背後で男が足早に遠ざかっていくのが足音で分かった。
(どうしたの・・・? 何をしようというの?)
未央が訝しく思っていた理由がすぐに分かった。バシャンという音と共に車両内の明かりが一斉に点ったのだ。未央は暗い中に目を馴らしていたせいで眩しくて目をしばたかせる。男はすぐに駆け戻ってきた。
「お、お願いっ・・・。やめてっ、こんなところを撮るなんて。最低よっ。」
しかし男は未央の耳元に顔を近づけてそっと囁くのだった。
「パンツ、下してやってもいいぜ。どっちがいい? あそこ、剥き出しにして洩らすのとパンツ穿いたままお洩らしするの。」
「い、いやっ。どっちも嫌よ。お願い止めてっ。本当にもう我慢出来ないの。ああっ・・・。」
絶望的な思いが括約筋に篭めていた力が限界に打ち負けてしまう。
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