回送電車の女 第一部
二十一
ラインのメールでは男は電車に乗ってやって来るとも、駅舎のほうから来るとも言ってなかったので、未央はやってくる電車と駅舎からやって来れる跨線橋の両方の様子を窺うことにする。指定された11時ぴったりに来る電車は時刻表で確認した限りではなさそうで駅舎からやって来る可能性のほうが高いと考えていた。既にもう近くまでやって来ていて、自分の様子を窺っているのかもしれないと思うと、不安に駆られながらあちこちを見渡すが未央には人の姿を見つけ出すことは出来なかった。
その時、駅のアナウンスが聞こえてきた。
<下り、一番線ホームに回送電車が来ます。当駅で急行電車の通過待ちをします。お乗りにはなれませんのでご注意ください。>
そのアナウンスのすぐ後にホームに近づいて来る電車のライトが見えてきた。
(回送電車なら、それに乗ってくるということはなさそうだわ)
回送電車は未央が立っているホームの片側の車線に入ってきて停止する。急行の通過待ちをするらしかった。
その時突然、携帯に着信音が鳴った。ラインのメールだった。
<回送電車の扉が一瞬だけ開くから、すぐに飛び乗れ>
(え? 回送電車のドアが開く・・・?)
不審に思っていると、後ろでプシューッという音がして停まっていた回送電車のドアが自動で開いた。
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