全国の天気

回送電車の女 第二部




 三十五

 「以上、全国のお天気を小林未央がお送りしました。」
 <はーい、カット。CMに移りまーすぅ。未央ちゃーん。ご苦労さまでした。>
 ディレクターのカットのサインに無事最初の収録が終わってほっと胸を撫で下ろす未央だった。
 「未央ちゃん、感じとってもよかったよ。」
 「あっ、ありがとうございます。熊谷プロデューサー。なんか、とっても緊張しちゃって。うまく出来たかどうか。」
 「未央ちゃん、その緊張感が初々しくていいんだよ。あ、今瞬間視聴率が出たみたい。ああ、いいねえ。お天気コーナーになった瞬間にぐっと数字が上がってる。この調子で明日も頼むよ。」
 「はーい、よろしくお願いしまーすぅ。」
 明るく答えた未央だった。新番組、『報道ファイブ』のお天気コーナーの滑り出しも順調だった。深夜番組の時同様、スタイリストが渡してきたコスチュームは短めのミニスカートに合わせたものだったが、『今夜も夜更かしニャンニャン』でミニスカートは穿き慣れている上に、報道番組のお天気コーナーはずっと立ったままの姿勢なのでうっかりパンチラを撮られてしまう心配もなくてのびのびと出来るのも未央にとってはやり易かった。

 「熊谷ディレクター。お天気コーナーの未央ちゃん、いい滑り出しじゃないですか。さすが熊谷さんが目をつけて深夜番組から引き抜いてきただけあって御目が高いというか。報道ファイブも引っ張っていってくれそうですね。」
 「ああ、だと良いんだが。そうだ。くれぐれも未央ちゃんにはスキャンダルに気をつけるように言っておいてくれよ。これから人気上昇は間違いないんだから、堀田ディレクター。」
 「わかりました。よく言い聞かせておきます。」
 未央の知らないところでそんな会話が交わされていたのだった。

 未央のお天気コーナーが終わったところで、運転手控室のテレビで放送を見ていた睦夫はリモコンでテレビのスイッチを切る。睦夫の他は控室には誰も居なかったからだ。
 睦夫は昨夜、今放送を終えたばかりの新人お天気おねえさんの未央が自分のペニスを咥えていた時の感触を目を瞑って思い返していた。
 (あの清純そうな笑顔を振り撒いていた女子アナが俺のモノを咥えさせられていたのだ。)
 そう思うだけで、ズボンの下のものが膨らんでくる。しかし何時、誰が入ってくるかもしれない運転手控室では勃起させたままでいる訳にもゆかず、慌てて未央への思いを振り払う睦夫だった。



 その頃、水島良子は自分が打ち立てた夜の回送電車の女はO電鉄の職員の誰かの仕業であるという推理が簡単に打ち破られてしまったことにショックを受けていた。
 (やっぱり私が観たのは幻か気のせいだったのだろうか・・・。)
 良子は自分が偶然垣間見たО電鉄の回送電車の女のことが頭から離れない。突然の事だったし、ほんの一瞬の出来事だったので本当に観たのかと言われると自信が無い。しかし何の先入観も無い状態でそんな幻を観る筈もないとも思うのだった。同僚から裸のような格好で夜の回送電車に女が乗っているらしいという情報を得たのは、良子がそれを目撃した後の事だった。
 後輩の速水に見せられたネット上にアップされた写真は、良子自身も確かめてみたがK電鉄の車両に間違いないと良子自身も思うのだった。
 (私が観たのがО電鉄で、ネット上のものがK電鉄だとなると、どういう事なのだろうか。どんな鉄道会社にでも出入り自由な犯人が居るということなのか・・・?)
 もう一度、О電鉄の社員に聞き込みをしてみようと決心した良子だった。

未央

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