電車磔女

回送電車の女 第一部




 六

 「おい、哲平。急げよ。そろそろ終電になっちまう筈だからな。」
 「ちょっと待ってくれよ。今トイレでやっと吐いてきて落ち着いてきたとこなんだよ。走ったらまたぶりかえしちまうぜ。」
 「だから哲平は呑み過ぎだって注意したんだよ。なあ、優弥。」
 「ああ、琢也。哲平はいつも最後はこうなんだからな。」
 一番最初にホームに上がったのは優弥だった。
 「あれっ。まじいぜ。やっぱりさっきの電車、終電だったみたいだぞ。」
 「え。ほんとか、優弥?」
 「ああ、琢也。ほら、あの時刻表。観て見ろよ。」
 「あ、ほんとだ。おい、哲平。お前のせいだぞ。あん時、お前がトイレに行くなんて言うから。」
 「だってしょうがねえじゃねえかよ。あのまま乗ってたら電車の中で吐いてたぜ。」
 そう言う哲平も時刻表を観て呆然とする。
 「逆の下りの方はどうかな。まだあるようなら大学のキャンパスまで行ってそこで野宿って手もあるぜ。」
 「どうかな。あ、電車が近づいてくるぞ。下り線だ。乗れそうなら乗ろうぜ、琢也。」
 「ああ。あ、駄目だ。あれっ、回送電車だよ。」
 「琢也、お前。目がいいなあ。どうするんだよ、哲平。お前のせいだよ。」
 やってきた電車は三人が待つホームには停車することもなく、若干スピードを落としただけでそのまま通過していってしまう。

 「ああ、すまん。すまん。こんな筈じゃなかったんだけどよう・・・。あれっ。」
 「どうした、哲平。そんな、あんぐり口なんか開けちゃって。」
 「い、いやっ。今、電車の中におっぱい剥き出しにした女が乗ってたんだ。こう、ほら。こんな感じで両手を上にあげて。スカートも捲れてパンツが見えてたみたいだった。」
 「何、言ってんだよ、哲平。回送電車に女が裸で乗ってる訳ねえだろ。お前がそういうの見たいって気持ちから起きた妄想だよ。」
 「そうだよ。優弥の言う通りだ。呑み過ぎてるからそんな見えてもいないもんが見えた気がするんだよ。」
 「そ、そうかなあ・・・。確かにおっぱいと白いパンツが見えたきがしたんだけどなあ。」
 「お、それよりどっか泊まるところ探さなくちゃ。こんな駅のホームで野宿はきついぜ。」
 「そうだな。カプセルホテルでも探すか。どっか空いてるところ、あるかな?」
 三人は電車で帰るのは諦めて再び改札の方へ戻るのだった。

未央

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