朝の電車基地

回送電車の女 第一部




 十九

 前日、すっぽかしてしまった生放送の翌日の放送を無事終えることが出来て始発の小田山行き電車に乗り込んだ未央は、クビを覚悟していただけにほっとして安堵の溜息を吐いた。何とか番組は降板せずに済んだらしいことにほっとした途端に新しい番組への予告だった。仕事の事でほっと出来たせいなのか、未央はそれまで忘れていた悪夢のような出来事を少しずつ思い出し始めていた。
 (そうだわ。気づいたらあの吊り革に手錠で繋がれていたんだ・・・。)
 未央はあらためて自分の手首を眺めてみる。それまで忘れていて気づかなかったのだが、手首には薄っすらと痣のような痕が残っていた。ずっと手錠を嵌められていたせいに違いなかった。
 何時、どうしてそんな状況になってしまったのかは皆目見当がつかなかった。
 (気づいたらもう手錠を掛けられていて、そんな状況の中で次第に尿意が募ってきたのだわ。)
 そこから先の事はもう思い出したくなかった。
 (それから何処か薄暗い場所に連れ込まれて・・・。あれはいったい何処だったんだろう。)
 未央にはみたこともない景色が広がっていたのだ。
(明かりが消えた電車の車両が何台も並んでいた気がする。あんな場所、この路線のどこかにあったのかしら・・・。)
 車窓の外を眺めると、もうすっかり明るくなったいつもの景色が流れているだけだった。その時、電車の窓に倉庫のような建物と何台かの電車が停まっているのが未央の目に入った。

 (あら、あんなところに・・・。あんな場所、前からあったのかしら?)
 その時の未央には電車が何台も並んで停まっている風景としか目には映らなかった。しかし聞き覚えのある車内アナウンスが耳に入ってくる。
 <次は、ひばりが丘。ひばりが丘でーす。>
 (ん? ひばりが丘? どこかで聞いたような名前だわ・・・。)
 その時は、その名前の響きに聞き覚えがあるような気がしただけだった。しかし電車が減速を始め、ホームに到着して車両のドアが開いた時に、やっと未央は思い出したのだった。
 (ここ・・・。昨日の明け方、私が辿り着いた駅だわ。)
 名前を聞いただけでは思い出せなかったのが、駅のホームにある駅名表示板の文字を見てやっと思い出したのだった。
 (私はこの駅の近くの公園のベンチで寝かされていたのだわ・・・。)
 慌てて窓に駆け寄るが、ホームからその公園らしきものは見当たらなかった。やがて電車は再び走り出してゆくのだった。


 アパートに帰った未央は、昼間の仕事に変わるかもしれないと熊谷プロデューサーに言われたにせよ、まだ『今夜も夜更かしニャンニャン』の仕事が終わった訳ではないので、暫くは夜勤を続けなければならない為、夜に備えて寝て置こうとしたその時だった。突然、スマホにラインが着信する。
 (あれっ、みゆきだわ。久しぶりね。何かしら・・・。)
 みゆきは高校生の同級生で、時々はラインでメールを交換することもあったが、最近はご無沙汰気味だった。
 <未央、元気? この間の新しい番組、見たわよ。すっごいね。録画しちゃった。>
 (新しい番組? 何の事だろう・・・。みゆきが今度の番組の事、知ってる筈はないし、まだ始まってもいない番組の録画を録っただなんて・・・。)
 不審に思いながらも添付されていた動画らしいアイコンをクリックしてみる。しかし開いた動画に映っていたものを見て、未央は凍り付く。画面に出てきたのは裸の乳房とスカートから下着を露わにした女性が万歳の格好で何かに括り付けられているようなものだった。顔にはモザイクが掛かっているのだが、未央にはすぐに判った。その女性の股間からは滴がしたたり落ちているのだった。

未央

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