回送電車の女 第三部
五十九
もうすぐ始まる生放送に向けて準備を進めている未央のところへ局の受付から電話で来客があるという。(こんな時間に誰だろう)と不審に思いながら急いで受付へ駆けつけた未央は思わず「あっ。」と声を挙げそうになる。名前は知らなかったが顔は忘れようもない。
思わず隅の方へ引っ張っていって他の人に聞かれないように小声で囁く。
「こんなところまで何の用ですか?」
「新しい仕事がどんな感じかって見学に来たんだよ。兄ですって言って入れて貰えるように言ってくれよ。」
「そんな・・・、困ります。」
「冷たくすると、もっと困ることになるぜ。」
未央は慌てて辺りを見回す。未央たちを不審そうに思った者はとりあえずは居なさそうだった。
「わ、わかりました。変なことはしないでくださいね。」
仕方なく、受付に戻ると受付嬢に告げる。
「あ、あの・・・。兄なんです。あ、義理の・・・。ちょっと見学したいって言ってるので、私が付き添いますから、ビジター用のパスを出してくれませんか?」
「ああ、お兄様・・・ですね。わかりました。どうぞ。」
受付でビジター用のパスを受け取ると睦夫に首から掛けるようにと言って渡す。
「もうすぐ放送が始まるんです。どこかでじっとして待っててくれませんか。」
とりあえず放送があるスタジオの方へ急ぎながら睦夫を案内する。未央は睦夫がいつ変なことを言い出しはしないかとヒヤヒヤしている。
「あと何分で本番なんだ?」
未央はさっと腕の時計を確かめる。
「もう15分ほどしかないわ。」
「その前にどこか二人だけで話せるところはないか?」
「え? 二人だけって。そんな事、急に言われても・・・。」
その時、目の前に空き室になっている出演者控室が目に留まる。
「ここなら、少しくらいの時間だったら・・・。」
未央はドアを開けてみて、誰も居ないことを確かめる。本番が終わるまで、そこで待っていて貰おうと思ったのだった。しかし後ろから肩をどんと突かれて中に押し込まれてしまう。
「あ、いやっ。」
すぐ後ろから付いて入ってきた睦夫は後ろ手に控室の扉を閉めると未央に飛び掛かる。未央が振り向いた時には片方の手首を取られて背中に捩じ上げられてしまう。
「い、痛いわ。放してっ・・・。」
しかし片手で捩じ上げて未央の自由を奪っておきながら、もう片方の手は未央のスカートのホックを捉えていた。未央が抑える間もなくスカートが引き下げられると、身体を突き飛ばされ床に両手を付いて倒れ込む。その隙に睦夫は未央からスカートを引き剥がしてしまう。
「な、何するの・・・。やめてっ。スカートを返して。」
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