回送電車の女 第二部
四十一
通報者から教えられた公園まではミニパトを使うことも考えたが、上司の了解を得ていない単独行動であるのと、通報者がマスコミに勘づかれたくないと言っていたので、目立たないように最寄りの電車駅から徒歩で行くことにした。服装も目立たない私服にした。
夜の11時という遅い時間であるので、駅からちょっと離れた公園は住宅地からも離れているようで、人通りの殆どない暗い路地の先にあった。
(こんな人寂しい場所を選ぶなんて、よっぽどマスコミを警戒しているのね。)
良子は警察官なので一応武道の心得もあるが、若い女性が一人で歩くような場所ではないと通報者の方を気遣う。
指示された公園は街灯の数も少なく、暗がりになっているところも多い。中央に一つだけある街灯からかろうじて照らされているところに、そちらも常夜灯ほどの明かりしかない公衆トイレがぽつんとある。
(あそこ辺りかしら・・・。)
中央の街灯の真下ではあまりに周囲から目立つので、公衆トイレの陰辺りではないかと思いながら良子が近づいていくと、その少しだけ明りのある公衆トイレの入り口付近で一瞬女性の頭らしきものが見えてすぐに引っ込んだ。
(あそこに居るんだわ。)
良子は自分の勘に自信を持って音を立てないようにそっと近づいていく。
「あの・・・。水島です。電話を受けた、水島良子です。」
あまり大声にならないように気をつけて小声で公衆トイレの外から声を掛けた良子だったが、返事はない。左側が男性用らしく小用の便器が見えている。反対の右側が女性用らしいのでそちらに向かおうと良子が踏み込んだ時だった。
バチバチバチバチッ。
いきなり後ろからスタンガンが良子の後頭部を襲った。何事か気づく間もないまま、良子は気を喪って床に崩れ落ちたのだった。
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