回送電車の女 第二部
四十
「あ、あの・・・。新条署でしょうか。そちらに生活安全課の水島良子さんと仰る警察官の方がいらっしゃると思うのですが、お願いできますでしょうか。・・・・。あ、はい。そうです。・・・・。あ、そうですか。はい、お待ちします。」
電話機を渡された未央は、まだ服も全部着きれていない状態で何度も、何度も練習させられた台詞を読みながら、新条署の水島巡査長を呼び出していた。
「あ、お待たせしました。生活安全課の水島です。えーっと、どういうご用件でしょうか?」
「あの・・・。わたし、今はまだ名前は明かせないのですが、水島さんに助けて頂きたいのです。」
「助ける・・・? どう言ったことで・・・でしょうか?」
「あの、実はわたし、ネットで評判になっている夜の回送電車に乗せられていた者なのです。」
「え? 何ですって・・・。」
突然の告白に、良子は身を乗り出していきりたつ。逸る心を抑えながらも良子は先を急がせる。
「そ、それで。どういう事情なのか、お聞かせいただけますか?」
「あの・・・。電話ではこれ以上はちょっと・・・。出来たらお逢いしてお話を聞いて欲しいのですが。」
「それはもう、是非にもお伺いさせてください。で、何処ならいいですか?」
「あの、わたし・・・。ちょっと事情がありまして、週刊誌の記者とかから追われているんです。ですから出来るだけ内密にこっそりと逢いたいんです。」
「ああ、なるほど。事情はお察しします。で、何処だったらよろしいでしょうか。」
「えーっと・・・。」
未央は睦夫に指示された通りの場所と時間を指定する。それは未央が最初に拉致された後、解放され、二度目には恥ずかしい格好を放映された直後に行かされて男のモノを咥えさせられ精まで呑み込むのを強要された公園だった。」
「夜の11時ですね。わかりました。必ず伺います。ですから、それまで無理をせず身の安全確保に十分注意なさってください。」
電話を終えて、指示をしていた睦夫の方を上目遣いに見上げると、睦夫は満足そうに頷いていた。一方の良子の方は、突然もたらされた貴重な情報提供に武者震いしているのだった。本来なら同僚や上司に報告して指示を仰ぎ、最低でも二人以上で臨まなければならないところだが、折角自分だけが掴んだネタをそう簡単に手放せなかった。上司からこれは捜査課の案件だから生活安全課の出る幕ではないと言われてしまうのが一番の気掛かりだったのだ。
(もう少し確たる状況証拠をつかんでからでなければ、事件として扱って貰えないわ。)
自分にそう言い聞かせると、もうしばらくは単独行動をする決意をした良子だった。
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