回送電車の女 第一部
五
睦夫は電車が終点の新条駅に到着すると最後部の車両の一番後ろの扉からホームに出て終電の車掌が降りて来るのを待つ。
全ての車両から乗客が降りてしまい、ドアが閉じられて暫くすると車掌が降りて来る。
「お疲れさまでした。」
睦夫は降りてきた車掌に敬礼して挨拶する。
「今晩も最後の回送かい? ご苦労さま。」
「あ、はい。いつもの事ですから。何か引き継ぎ事項はありますか?」
「いや、特にないよ。じゃ。後、頼んだよ。」
「了解です。お気をつけて。」
駅事務所のほうへ戻っていく車掌を見送ると、車掌と入れ違いに今度は運転室となる乗務員室に乗り込む。運転席に着くといつものように指差し点呼しながら機器をひとつひとつ確認していく。
「電圧計、異常なしっ。ATS、自動チェックプログラム、異常なしっ。緊急ブレーキ、作動異常なしっ・・・。」
車両運行管理センタとの通信用インカムを装着すると、回送準備完了を報告する。
<こちら、A103号車両。S電車基地への回送準備の始業点検を終了しました。>
<あー、こちら車両運行管理センター。了解しました。A103号車両、回送運行を開始してください。>
<こちら、A103号車両。これよりS電車基地への回送運行を開始します。>
<こちら車両運行管理センタ。了解。>
睦夫は目の前の信号が黄色から青に変わるのを確認すると、ブレーキシステムを解除し電車を起動させる。睦夫の当面の目的地である南新条駅を目指す。南新条までは2分足らずだ。
<こちら、A103号車両。緊急停止します。線路内に何か小動物が目視されました。>
<こちら車両運行管理センター。了解。南新条駅内にて一旦停止して確認してください。>
<A103号車両、了解しました。南新条駅内にて一旦停止します。>
全ては作戦どおりに事が運んでいた。睦夫は急ブレーキにならない程度に急制動を掛け、あらかじめ予定していた通りの場所にピタリと電車を停止させると、乗降ドアを一旦開け放つと全速力で乗務員室の扉から走り出て女を置いてきた南新条駅のホーム待合室へ駆け込む。女はまだ正体なく寝入ったままだった。ベンチに移した時と同じように首筋と太腿の下に両腕を差し込むと女を抱え上げて回送電車の中へ運び込む。女を電車内の床に転がすと一目散に乗務員室に戻り開けていた乗降口の自動開閉ボタンを押して全ドアを閉める。
乗務員室の窓だけ開けて待つと暫くして南新条駅の夜勤職員が走ってくる足音が聞こえてきた。
「どうしました?」
乗務員室の窓から問いかけてくる駅職員に向かって睦夫は動じることなく、作戦どおりの台詞を復唱する。
「あ、駅前方にて犬らしき小動物が線路内に入っているのを目視しましたので緊急停止しました。車両を駅構内から少しだけ前進させますので、ホームの下にまだ居ないかどうか確認をお願いします。」
「はあ、そうですか。了解しました。お願いします。」
睦夫は軽く警笛を一回鳴らすと、電車をホームから少し離れた場所まで移動させる。そしてインカムを付けたまま用意した鞄を持つと、さっき女を運び込んだ車両まで電車内を移動する。
駅のホームまでは50mほどだが、駅構内にいる職員から電車内の様子までは見えない筈だった。女はまだ昏睡状態にある。用意した鞄から手錠を取り出すと女の片方の手首に掛け、女を抱え起こすと吊り革に手錠を潜らせてからもう片方の手首に反対側を掛けてしまう。女は手錠で吊り革にぶら下げられた格好になるが、まだ正気には戻っていない。睦夫は女のブラウスのボタンを上からどんどん外していく。露わになったブラジャーを乳房から外して上に引き上げてしまう。更にはスカートの前側の裾を持ち上げると腰の部分に挟み込ませる。女の白い下穿きが露わになる。睦夫はその下穿きまでも膝まで下してしまおうか少し迷って下着はそのままにすることにした。
<あー、A103号車両。こちら車両運行管理センターです。ただいま南新条駅から報告がありました。駅構内ホーム下には既に小動物は居なくなっている模様です。その他等も損傷もありませんのでそのまま回送運行を続行してください。>
<こちらA103号車両。了解しました。これから回送運行の続行を開始します。>
睦夫は車両運行管理センターからの報告を聴きながら悠々と運転席へと戻るのだった。
次へ 先頭へ