通報電話

回送電車の女 第三部




 六十六

 その日の放送収録が終わってすぐに未央の携帯に電話が掛かって来る。掛けてきたのは睦夫だった。
 「放送は終わったんだろ。今日もお前のマンションに寄らせて貰うぜ。外の玄関で待ってるからすぐに来るんだ。」
 「き、今日は駄目なんです。実家から両親が訪ねてきてるんです。」
 「実家の親だと・・・? 間の悪い奴等だな。」
 「あの・・・。貴方のお部屋では駄目ですか。そこでだったら、言うことを聞きます。」
 「俺の部屋でだと・・・。まあ、それでもいいか。じゃ、待ってるぜ。」
 未央は一計を案じたのだった。このまま睦夫に好き放題され続ければどこかで発覚しないとも限らない。何とかして早く終わらせなければと思ったのだ。実家から親が訪ねてきているのは嘘だった。未央は睦夫の住処を嗅ぎ付けることで打開策が打てるのではと考えたのだった。
 今度もタクシーを使ったが、両手は縛られなかったので短いスカートの裾の奥を覗かれないようにしっかり両手で膝をガードしていた未央だった。下町を抜けていくタクシーの経路を未央はしっかり頭に入れるように外の景色をずっと眺めているのだった。
 辿り着いたのはとある二階建ての安アパートだった。
 「お前んとこの立派なマンションみたいな訳にはゆかないが、たまにはこういう場所でやるってのも気分が変わっていいかもしれんな。」
 「あの・・・、家で両親が待っているので済んだらすぐに返してくださいね。奉仕はきちんとさせて頂きますので。」
 しおらしく未央がそう言うと、睦夫はにやりとして未央に先に立って歩かせ、二階の一番奥の自分のアパートへ未央を導く。
 「縛ってやるから、まず着てるものを全部脱いで貰おうか。」
 部屋に入るなり後ろ手で扉を閉めると睦夫が命令する。
 「今回は服の上から縛って貰えませんか。」
 未央はさりげなく睦夫の前でしゃがんでみせて、短いスカートから下着が見えそうなぎりぎりのポーズを取って見せる。
 「スカートから恥ずかしいところを覗かせるってのも悪くない趣向だな。じゃ、両手を背中の方に出しな。」
 未央はしゃがんだまま下着が覗かないように注意しながら姉さん座りになると、両手を後ろに回す。そして睦夫が戸棚から縄を取り出しているのを見て、アパートの扉の方をちらっと見る。入ってきた時に施錠はしていなかったのを確認していたのだ。タクシーから降りる前にせまい商店街の端に交番があったのを思い出していた。
 (隙をみてあそこに飛び込めれば・・・。)
 縛られていても、交番に助けを求めれば警官が睦夫を現行犯で逮捕してくれるのではないかと考えたのだった。

未央

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