回送電車の女 第一部
二十三
躊躇している未央の元にまたラインの着信がある。今度は動画を添付したメールだった。その動画のアイコンをクリックした未央はとうとう惧れていたものが現実になるのを知った。最初に送られてきた自分が電車の中で失禁している姿だった。しかも今度のそれは顔にモザイクが掛かっていないものだったのだ。未央は完全に観念して震える手でブラウスのボタンを外し始める。ふと気づいてブラウスのボタンが半分まで外れたところで車両の奥の網棚まで鞄を取りに行く。
それから身を屈めてどんどん脱いでは服を鞄の中に放り込むのだった。最後のショーツ一枚はさすがに躊躇われた。が、モザイクの掛かっていない動画を見てしまった以上、もう後には引けなかった。さっとショーツを足から抜き取ると鞄の奥にあったアイマスクを頭に掛け出来るだけ外から見えないように身を屈めるのだった。
電車がひとつ駅を通過したのはアイマスクの下側からかろうじて洩れてくる外から入ってくる灯りの明るさからだった。未央はホームに居る人から自分が見えていないことだけを祈った。電車が駅を通過してすぐに小走りに近づいて来る足音を耳にした。それはこの電車を運転している運転手か車掌に違いなかった。
(私を助けてくれるだろうか・・・。)
しかしその淡い期待はすぐに裏切られるのを知る。未央の手首が乱暴に捉まれその手首に何か冷たいものが押し当てられた。
ガチャリ。
冷たい金属音で、それが手錠だと分かる。
「あ、いやっ・・・。」
手錠を掛けられた手首が強く引かれて、未央は無理やり立ち上がらされる。手首に感触はないままにもう一度ガチャリという音を聴く。手錠の反対側が吊り革に掛けられたのだと想像する。
(もしや、もう片方も・・・。)と思った時には既に手首を掴まれていた。あっと言う間にもう片方の手も手錠を掛けられ、その先を別の吊り革に繋がれてしまう。もはや全裸の身を自分では隠しようもない恰好で闇を走る電車の中で磔にされてしまったのだった。
「こ、困ります。わ、わたし・・・。テレビに出る仕事をしているのです。こんな恰好を誰かにみつかったら、もう仕事も出来ません。ど、どうか・・・。」
「お前のことは知っているさ。だからアイマスクだけは外さないでおいてやる。」
「そ、そんな・・・。わたし、裸なんですよ。こ、困ります。どうか赦してっ・・・。」
しかし男はそのまま未央を放置したままで再び小走りで走り去っていくのだった。
(う、運転手・・・なの? そんな、まさか・・・。)
しかし未央の思考は再び駅を通過するらしいアイマスクの下から洩れてくる光で遮られてしまう。自分はホームと並行に繋がれているらしかった。未央に出来るのは精一杯首を反対側に向けるように捩じることぐらいしかなかった。剥き出しの乳房と股間はもし気づいた者がいたら、丸見えになってしまう筈だった。
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