回送電車の女 第二部
四十六
「それじゃ、すぐ尿検査してきます。」
「え、待って・・・。このまま私を置いていくの?」
「すぐ戻りますから。」
女警察官は優愛にウィンクしてみせる。ショーツは抜き取られ、スカートは肌蹴られたままだったのだが、女警察官は意に介さぬ様子で車から出て行ってしまう。優愛は誰かが車に寄ってくるのではないかと気が気ではなかった。
女警察官の代わりにやって来たのはさきほどの刑事だった。
「奥さん。残念ながら結果は陽性でした。麻薬使用の現行犯ということで緊急逮捕させて頂きます。」
「何ですって? そんな筈、ありません。私が麻薬・・・? 何かの間違いです。」
「拘置所でもう一度精密検査がありますからご心配なく。簡易キットでの検査で絶対間違いないということはありませんが、何度もこれで麻薬常習者を逮捕してきた実績もあります。これから拘置所へ向けて緊急搬送となりますが、万が一のマスコミ関係者に顔を映される可能性がありますので、頭に頭巾を掛けさせて頂きますよ。」
「え、マスコミ? 顔を映される・・・?」
刑事は犯人の扱いだとばかりにスカートの裾を戻してくれただけで、ショーツまでは穿かせず終いだった。顔を映されると聞いて素直に頭に頭巾を被されるのは我慢したが、ノーパンのままで搬送されると聞いて、不安は募るばかりだった。
(拘置所で精密検査をし直すと言っていたわ。簡易キットで陽性だなんて、何かの間違いに決まっている。それまではじっと我慢するしかないんだわ。)
刑事は運転席に移ったらしく車がスタートするのを身体で感じる。車が動き出してすぐにパトカーのサイレンが聞こえてきた。パトカーが並走しているのだと優愛は推測していたのだが、それが刑事を装った睦夫が助手席に置いたボイスレコーダーから流しているダミーのサイレン音だとは目隠しをされた優愛が気づく筈もないのだった。
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