始発眠りこけ

回送電車の女 第一部




 三

 その日の朝も、女は睦夫は自分が都心ターミナル駅まで回送運転をしていった始発用の電車に今度は乗客として乗り込んでいた。いつも女が乗って来る車両の一番隅に席を取る。始発電車に他の乗客が乗ってくることは稀だったが、その女は必ず始発電車に乗り込んでくる。
 (いったいどんな仕事をしているのだろう。夜の商売なのだろうか・・・。)
 女は明らかに私服だが、ミニスカートで居ることが多かった。その日もデニムの超が付きそうなミニスカートだった。電車に乗り込んですぐに女は舟を漕ぎだした。
 (電車に乗ってあんなにすぐに寝込んでしまうところをみると、やはり夜の商売なのだろう。徹夜明けなのでどうしても眠ってしまうのだ。)
 睦夫はそう推理する。
 女はミニスカートから伸びる脚の膝を少し緩めている。真正面からみたら下着が覗いて見えそうな気がする。始発電車で他に殆ど乗客が乗ってこないので安心しきっているのだろう。睦夫はその女の正面に行って、そっとしゃがみ込んでスカートの奥を覗いてみたい誘惑にかられる。
 (駄目だ。そんな事して、もし見つかってしまったらこの会社を首になりかねない。)
 そう思って自分の誘惑に抗いながらも、自分が降りるべき電車基地のある駅に着いてもその女の事が気になって置いて降りることが出来ないのだった。
 (まあ、どうせ事務所に戻ったって仮眠室で数時間は休む権利があるんだから、その時間使ってもう少し様子を見張っていたって誰にも咎められる筈はないんだ。)
 そう自分に言い訳すると、かつてこの女を追って終点ひとつ手前の駅まで降りるのを見届けた時と同じように女の様子を窺いながらもう少し乗っていようと決心した睦夫だった。

 (本当に起きれるのかな・・・。)
 女が降りるべき駅が近づいていた。しかし女はぐっすり寝入っているようで、一向に目を覚ます気配はなかった。
 (このままじゃ、乗り過ごしてしまうんじゃないだろうか。)
 そう思うと居てもたってもいられなくなり、睦夫はいつしか隣の車両へ向かうドアのコックを押し下げていた。
 女は睦夫の目の前で相変わらずぐっすりと寝入っている。薄っすらと開いてしまっている膝と膝の間が睦夫を誘っている気がした。
 (いや、駄目だ。でも、このままじゃ寝過ごしてしまう。どうしよう・・・。)

未央

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