回送電車の女 第三部
五十八
「水島せんぱ~いっ。またネットに出てますよ。例の回送電車の女っ。」
「え、今度は何が出ているの?」
「やっぱりK電鉄みたいですよ。今回は何人も目撃者が居て。スマホで撮った写メも映りは悪いですが、何枚かアップされてます。」
「へえ、そうなの・・・。か、顔は? 顔が分かるようなのは映ってるの?」
「それがですね。どれも走ってる電車を撮ってるんでばっちり映ってるのはなくて・・・。えーっとこれぐらいかな、一番ちゃんと映ってるのは。」
「えーっ、これっ? 殆ど顔は分からないわね。それに何かマスクみたいの着けてるじゃない。」
「そうなんですよ。目隠しのアイマスクってやつじゃないですかね。」
「やっぱりこれっ、やらせなんじゃない? ほら、最近よくあるじゃない。深夜のコンビニとかレストランの厨房の仕込みとかで、へんな画像を勝手に撮ってアップしちゃうやつ。」
「ああ、ネット炎上を狙ったやらせ画像ですね。そうかもしれないですねえ。」
「だいたい電車の、しかも回送電車内に一般人が忍び込める訳ないじゃない。きっと運転手とモデルがグルで、いかにも事件性がありそうな感じに仕込んでるんじゃないかな。」
「あれっ? 今回はやけに冷ややかですね。この間はきっと女性が被害にあってるんじゃないかって息巻いていたのに・・・。」
「冷静に考えてみたら、女性が被害にあってこんな格好を晒されているなんであり得ないって気がしてきたの。だって、女性が協力してなかったらこんなシチュエーションになれないでしょ。運転手は運転中だし、運転手以外が乗ってたとしたら運行関係者が気づかない訳がないじゃない。きっと運転手と女性がグルになって、いかにも襲われて裸にされて晒し物にされたみたいなのを繕っているに違いないって気がしてきたの。」
「あ、なるほど・・・。それも一理ありますね。そんなのに乗せられて捜査を真面目にやり出したら無駄足踏まされるだけですよね。」
「その可能性大ね。もうわたしはこの件には関わらないことにするから。」
「そうですか・・・。先輩がそう言うなら僕ももうこの件は深追いしないことにしますぅ。」
良子は後輩がネットの記事から事件性がなさそうだと思い込むのをみて、ほっと胸を撫で下ろすのだった。
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