未央タクシー運び

回送電車の女 第一部




 十四

 隣の駅の南側にある公園というのは人家があまりなく、夜は街灯も少なく寂しげな場所だが運転手は特に不審がらなかったようだ。睦夫がその公園を選んだのは朝まで寝かせておくのに誰にも気づかれなさそうな場所だというのと、電車基地からの距離がいつも使っている睦夫のアパートまでとそう変わらないと踏んだからだった。
 「あ、運転手さん。その公園の入り口のところでいいや。こいつの家、親がうるさいからタクシーで乗り付けたりするとかなり叱られると思うんで、ここの公園で少し酔いを冷まさせててから送っていくんで。後は大丈夫。」
 運転手はすこし怪しむような顔をしたが、何も言わずに睦夫が差し出すタクシー券を受け取るとだっこされている女と睦夫を残して走り去ってしまう。
 タクシーが居なくなってから睦夫は女をだっこして公園の中に入る。夜の公園は静まり返っていて人の気配も全くない。たった一本だけある街灯の明かりから陰になっているベンチの方へ女を運んでいくとそこに寝かせ女のバッグにスマホを戻して近くに置いておく。
 (もう一度タクシーを使う訳にはゆかないから、アパートまでは歩かなくちゃならないな。)
 しかしその苦労もこれから起こるであろうことへの期待に膨らむ睦夫の心のうちにはどれほどのものでもないのだった。

未央

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