回送電車の女 第二部
四十三
突然、車の前に現れたのは女性の制服警察官だった。警棒で路肩に停めるように指示されて買物帰りの優愛は車をゆっくり道路の端に寄せる。
「済みません。今、緊急の検問を行っております。ご協力頂けますでしょうか。」
ウィンドウを下げた優愛に女警官は警察手帳を示していた。
「あの、私。何も違反になるような運転はしていないと思うんですけれど・・・。」
不審そうに問いかける優愛に、女警官は優しく微笑みかけるように話しかける。
「交通違反の検問じゃないんですよ。この近くで暴力団による麻薬密売の取引がありまして、薬物を一般車両に紛れて運び出そうとしている疑いがあるのです。すぐ済みますので、申し訳ありませんが、一応車内をチェックさせて頂きたいのです。」
優しい言い方ではあるが、拒否することを許さない調子があった。優愛は女性警察官でもあるし、言い方が丁寧だったので素直に応じることにする。
「あの恐れ入りますが調査の間、後部座席に移っておいて貰えますか。」
「あ、はい。わかりました。」
警官の指示に従って運転席を出ると後部座席に移る優愛に続いて女性警察官も後部座席の隣に乗り込んでくる。
「あの、規則ですので調査が終わるまで暫くの間、手錠を掛けさせて頂きます。」
「え、手錠・・・?」
「あ、はい。証拠隠滅を避ける為で、まあ形式的なものではあるんですが規則でどなたにも協力頂いています。」
女警察官の口調が次第にだが頼み込むような話し方から有無を言わせない命令的なものに変わっていっているのを優愛は何となく感じる。
「済みません。失礼します。」
女警察官は一礼すると、尻ポケットから手錠を取り出すと丁寧にやさしく優愛の手首を掴むと手錠を掛けてしまう。
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