回送電車の女 第二部
三十三
「運転手さん。朝日ヶ丘駅の南口近くの朝日ケ丘児童公園っていう場所に行って欲しいんですけど。」
そこは男から最終回の番組収録が終わったら来るように告げられていた場所だった。何時もなら始発電車が動き出すまで局のアナウンサ控室か事務所で仕事をしてから帰るのだが、その日は始発が動き出すより前の時刻に指定された公園まで来るように言われていたのでタクシーを使うしかなかったのだ。
「朝日ケ丘駅の南口ねえ。ああ、これだな。分かりました。」
運転席のナビゲーションシステムを起動させて場所を確認した運転手は後部座席の未央に向かって答えると車をスタートさせた。
未央もどういう場所なのか分からなかったのだが、タクシーがその場所に近づくに連れ思い出してきた。嘗て未央が電車内で拉致された時に明け方解放された場所なのだった。
男の呼出には応じたくはなかったが、未央の方にも男に念を押しておかねばならないことがあったのだ。
公園の入り口でタクシーを降りると、車が走り去るのを待って公園内に入る。見覚えのあるベンチが薄暗がりの中にあるのが見える。そのすぐ傍に男のシルエットが見えた。未央はゆっくりとその男の影に向かって歩いていく。
「うまくやったじゃないか。パンティを穿いているのか、いないのかぎりぎり分からない見え方だったぜ。」
男はもう既に番組を観ているらしかった。股間が丸見えではなかったらしいことに未央は少しだけ安心する。
「私がここへ来たのは貴方にお願いする為よ。もうあんな事は二度とさせないで。あんな事してたら何時かは放送事故になってもうテレビには出られなくなってしまうわ。あれは最後だって約束だったわよね。」
それを確認して念を押す為にわざわざ男の呼出に応じたのだった。それをまず確認しておきたかった。
「お願いをするからには、その代償を払う覚悟があるんだろうな。」
「え? だ、代償って・・・。」
「俺を満足させる奉仕をするってことだよ。お前も大人の女ならそれが何を意味するかぐらい分かるよな。」
「そ、それは・・・。」
「お前もテレビの仕事は続けたいんだろ。だったらそれなりの代償は払わなけりゃな。」
男は持っていた鞄から何やら折りたたんだ布のようなものを未央に向かって放り投げる。
「それを広げて靴を脱いで上に上がりな。」
それは敷布のようなものだった。未央は言われた通り、それを公園の芝生の上に広げて靴を脱いでその上に上がる。男は靴を脱がずにそのまま布の上にあがりこんでくる。男はそれまで着けていたサングラスを取る。
「あ、貴方は・・・。」
「思い出したようだな。あの時は勝手に痴漢呼ばわりされたが、今度はお前が自分から奉仕させてくださいってお願いするんだ。」
「そ、それは・・・。わ、わかり・・・ました。ほ、奉仕・・・させてください。」
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