ストッキング運転士

回送電車の女 第一部




 十

 睦夫はまず荷物の中からストッキングを取り出すと頭から被る。その上で電車内の明かりを一旦全部落とす。薄暗い中で近づけば顔は分からないと思ったが、電車基地内には常夜灯などの明かりも少しは点いているので念には念をいれたのだった。その上で用意してきたバッグを手にすると暗がりの中を女を繋いでおいた車両まで電車内の通路を伝って静かに歩いていく。


 突然、電車の明かりが全て消えてしまったことで、未央はあらためて恐怖を感じる。自分をこんな目に遭わせた者の意図はわからない。しかし無事で済む筈がないのは明らかだった。
(大声を挙げたら誰かが助けに来てくれるだろうか・・・。)
 しかしこんな暗闇の中であられもない恰好の自分を見つけられて、必ずしもいい方向に向かうとは限らないとも思った。何せ何の抵抗も出来ない恰好なのだ。そのうえ男を欲情させるような恥ずかしい恰好のさせられている。犯してくれといわんばかりの格好なのだ。
 未央は暫く様子を見てみることにした。その時、遠くから数かな足音が近づいてくるのに気づいたのだった。

男の影

 「だ、誰っ? 誰なの・・・あなた。私をこんな目に遭わせているのは貴方なの?」
 未央は男の方を振り向いてみたいのだが自分のあられもない恰好が分かっているだけに正面を向けることが出来ず男には背を向けている。男から返事はないが、確実に未央のほうへ近づいて来ているのは確かだった。
 「貴方なんでしょ、こんな事したの。ねえ、これを外してっ。こんな事して、何がしたいの?」
 男からは返事はなく、代わりに後ろから未央の首に何かが掛けられる。突然何も見えなくなったことで未央は目隠しをされたのだと気づく。それは飛行機などで配られるゴム紐付きのアイマスクらしかった。
 「何するの。これじゃ何も見えないわ。」
 抗議する未央の顎に男の手が掛けられ上向かされる。

未央

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