回送電車の女 第二部
四十四
「こ、こんな事しなくても私、変なことはしませんけど。」
ムッとした表情になって優愛が苦情を述べようとすると、女警察官は更にもう一本の手錠を両手に掛けた手錠にくぐらせるとドアの上についている手摺の把手に掛けてしまう。
「では、男性調査官と代わりますので。」
「え、そんな・・・。」
何時の間にか車の外には刑事のような風体の男が立っている。
「お願いします、磯貝刑事。」
後部座席から出てゆく女性警察官と入れ替わりで磯貝刑事と呼ばれた男が運転席に入ってきてダッシュボードなどを調べ始める。
「本当に私、何もそんな麻薬取引なんかに関係していませんから。」
「あ、奥さん。何も出なければすぐ解放されますので。あれっ・・・。」
運転席の刑事がダッシュボードの奥から何やら白い粉が入ったビニール袋を取り出す。
「奥さん、これは何ですか?」
「えっ、そ、そんなもの。し、知りませんわ。」
刑事はジップロック風のもので閉じられた袋をそっと開けると匂いを嗅いでいる。
「奥さん。この車は奥様のものですか?」
「ええ。あ、いや。主人の名義ですけれど、私も時々使っているものです。」
「ご主人はどのようなお仕事を?」
「あ、あの・・・。商社マン・・・ですわ。」
「商社マンと言えば、外国との取引なんかもありますよね。」
「あ、あの、あると思いますが・・・。主人が何か関係してるとでも仰るのですか。」
「それは捜査してみないと何とも言えません。」
「そ、そんな・・・。主人に限って、まさかそんなことは・・・。」
「奥さん。奥さん自身についても調べなければなりません。女性警察官ともう一度代わります。」
車の外で待っていたらしい女性警察官が刑事と耳元でひそひそ会話を交わす。入れ替わりで運転席に乗り込んでくると、車を道路から公園の木陰のような人の往来のない場所に移動させる。女性警察官はそこで車を停め、キーを抜き取ると運転席に何やら小さな機械を取り付けてから後部座席に再び乗り込んでくる。ダッシュボードに取り付けられた小さな機械は端に赤いランプが灯っていて、黒いレンズのようなものが真っ直ぐ優愛に向けられている。
「何ですか、あれは?」
「済みません。あれも規則で決まっているもので。不正な捜査が行われていないかどうかを証拠として残す為のビデオカメラです。後日、訴訟のようなものが行われない限り、再生されることはありません。」
「そ、そんなの不要です。私が何か訴訟のようなことをするなんてあり得ませんわ。」
「規則ですので。身体検査をさせて頂きます。」
そう言うと、女警察官は優愛の脇から手を入れてブラジャーの下辺りに何か隠していないかを探る。その手は脇腹から腰のあたりに降りてきて、今度はスカートの中に何か忍ばせていないかを探っている。優愛は手錠でドア上の把手に繋がれているので、されるがままになるしかない。
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