妄想小説
田舎教師
七十七
「あら、そうでしたの、うちの権藤と。同郷だなんて、そんな偶然もあるんですねえ、貴方?」
「あ、まあ、そうだな・・・。」
「是非、私の両親にも逢っていってくださいな。この地域の教育長をしてるんですよ、父は。」
「あ、いや。それはいいから。お義父様まで出てきて貰う必要はないから。」
「まあ、お父様は教育長でいらっしゃるのですか。それでは是非にもお逢いして、日頃どんな風に教頭先生にご指導して頂いているかご報告差し上げなければなりませんわ。」
「き、君っ。何を言っておるのだ。いいから、もう帰りたまえ。」
「貴方、そんな。失礼よ。折角、我が家までお越しくださったのに。私の普段、貴方が学校の先生達にどういう指導をなさっているのか、是非お聞きしたいわ。」
「いや、そんな話しはまた別の機会に・・・。君、いいから今日はとにかく帰りたまえ。」
教頭に強引に押し切られて玄関の外まで早苗は連れ出される。
「君。どういうつもりか知らんが、二度と我が家に来るんじゃないぞ。いいな。」
「え? 教頭。何か都合が悪いことでもあるんですか? 私は稲葉教務主任から是非にも教頭のお家にご挨拶に行っておきなさいと言われたんですよ。」
「稲葉君が? 何を勝手なことを・・・。いいからもう帰りなさい。そして二度と来るんじゃないぞ。いいね。」
「さあ、どうしようかしら。」
教頭の慌てぶりにいささか驚いた早苗だったが、ただ単に落合に言われた通りに振舞っただけであそこまで教頭が狼狽ぶりを表すとは思ってもいなかっただけに早苗は却って驚いたのだった。
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