妄想小説
田舎教師
三十一
早苗が異変に気づいたのは、いつも乗っている通勤電車が一駅目の停車駅を過ぎてすぐだった。相変わらず故郷の田舎では経験したことのない混みようで、鞄や肩がぶつかるのは仕方がないことだとだんだん分ってきてはいた。少し混み具合が激しい時には背中全体が押されて思ってもいない方向へ押し出されて行きそうになるのも経験したことがあった。しかしこの朝は少し様子が違っていた。ある一箇所だけにはっきり触れてくるものを感じていたのだ。
(痴漢・・・?)
そんな言葉が一瞬早苗の頭に浮かんだが、そういうものを大人になった今まで実際に経験したことがなかっただけに確信が持てない。
(きっと気にし過ぎているだけなんだわ。)
何度もそう思おうとした早苗だったが、その触れ方は徐々にではあるが露骨さを増しているように思えた。何度も振り返ってみようと思ったが、ついにその勇気が出なかった。
電車がガタンと大きく揺れて、誰かの手が早苗のすぐ前の手摺りを掴んだ。早苗自身は吊り革に必死につかまって耐えていたが、後ろからぐんぐん押されるようになると自分の胸が手摺りを掴んでいる男性の腕に押し付けられるようになってしまう。その男性が自分の胸が触れてしまっているのに気づいているのかどうかも判らなかった。
(きっとこの人も必死で堪えているのだわ。わざとじゃない・・・、きっと。)
そう思うのだが、早苗の乳房のすぐ下辺りで当たっていた腕が心無し少しだけ上に持ち上げられたような気がした。ブラジャーに包まれた早苗の胸が押し上げられようとしているのだった。
お尻の方には相変わらず何かが押し当てられている感触が続いている。それが同じ人のものなのかも判らない。早苗には振り向いてみるだけの余裕も隙間も無かったのだった。
じっと堪えていた早苗がされるだけになっているのをその男は了解の意志と取ったようだった。男の手は次第に遠慮がなくなってきていた。胸元の押し付けられるのから逃れようと一歩車内奥の方へ身体を滑らせた時に、後ろから触れられていた手が腰を廻り込むようにして前の方に伸ばされ、ついには早苗のスカートの裾を掴んだのだった。
(いやっ。捲られてしまう・・・。)
自分のスカートの裾の状態を覗きこむことも出来ずにいると、今度はもう一方の手が無遠慮に胸元に伸びてきた。
(えっ、そんな・・・。)
早苗がどうすることも出来ずに居ると、男の手は器用に早苗のブラウスのボタンを外してしまったのだった。
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