教室板書

妄想小説


田舎教師 第三部



 四十九

 ミニスカートで教壇に立つことも、自信が持てるようになってきていた。自信を持って生徒たちに接することで、最早教室で騒がれたり囃し立てられるようなこともなくなっていた。生徒たちの視線は相変わらずミニスカートの裾辺りに熱く注がれているような気がしたが、隙のない立ち振る舞いに、最早尊敬の念も感じられるようになっていたのだ。
 「それじゃ、教科書の和歌を詠んで貰います。朝比奈君、21頁から一首ずつ詠んでいって。」
 早苗に指名された男子生徒はちらっと早苗のミニスカートに目をやってから教科書に目を落とす。
 「あはれとも いうべきひとは 思ほえで 身のいたづらに なりぬべきかな」
 「はいっ、いいわ。じゃ、どういう意味かしら?」
 「えっ、意味ですか。えーっと・・・。可哀想な人のことを思い出そうとして、おもわず自慰してしまった・・・ってな感じですかね。」
 「自慰・・・? いたづらは自分の身体に悪戯することではないわ。いたづらは現代語で言えば虚しくぐらいの意味かしら。」
 「先生。オナニーをするとむなしくなるのではありませんか?」
 「え、そう・・・なの?」
 「先生はどうですか?」
 「そ、それは・・・教えられないわ。」

セクシータイトスカート

 その時、ふと視線を後ろの方にやった早苗は一番後ろの列の男子生徒が明らかに教科書ではないらしいものを机の下でこっそり見ているのに気づいてしまう。
 早苗は音を立てないようにするするっと近づいて行く。
 「何を見ているの? これは明らかに、教科書ではないわね。今は授業中ですよ。」
 早苗は生徒からいきなり奪い取った冊子を痴漢の手を挙げるかの調子で、頭の上に掲げる。しかし、ふとその冊子のほうを見て、裸の女性が縛られている写真が写っていることに気づいて慌てて背中に隠す。
 「これは預かっておきます。放課後、職員室に来なさい。いいわね。」
 その裸の女が移った写真集を取り上げられた男子生徒は首を竦めて小さくなっている。他の生徒たちも何を取り上げられたのかと、ヒソヒソ話をし始めるのだった。

 授業終りのチャイムが鳴って、生徒から取り上げた冊子を出席簿と教科書の間に挟んで教室を後にした早苗は、職員室に戻る前に女性用の職員トイレに寄ることにした。取り上げた冊子を職員室で見るのは憚られる気がしたからだった。
 個室の扉をきっちりロックしてから冊子を開いてみた早苗は衝撃を受ける。教室ではちらっと見ただけだったが、中にはどのページにも裸にされた女性が縄で戒めを受けている写真が並んでいたからだ。
 (何なの、これは・・・。)
 初めてみる類の写真集だった。写っている女たちは折檻を受けている様子なのだが、顔の表情は明らかに恍惚としているように見える。個室の中で誰からも見られてはいない筈なのに、早苗のこめかみからは脂汗が落ちるような気がした。いけないものを見てしまったような罪悪感が早苗を襲い、心臓がどきどき高鳴るのだった。

小俣早苗

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