合コン初体験

妄想小説


田舎教師



 三十九

 早苗のことを強引に誘った寮友の一人、純子がトイレに立った際に出口で待ち構えていた男性四人のうちの一人に呼びとめられたのだった。
 「なあ、今日来ているうちの一番右側に座ってるあの娘、何とか電話番号聞き出してくれないかなあ。」
 「ええっ? あんな田舎臭い娘なんかがいいの?」
 「だって真面目そうだし、擦れてないっていうのが合コンによく来る女の子達とはちょっと違うんで気になってるんだ。なあ、頼むよ。こっそり電話番号聞き出してくれよお。」
 純子は自分ではなくて、やっと誘い出した早苗の方に男子学生が惹かれたらしいことにかなり嫉妬していた。
 「いいわよ。電話番号、貰ってきてあげる。でも今夜、この後は駄目よ。私と付き合って貰うから。何ならホテルに行ってもいいわよ、この後。そしたらその時電話番号を教えてあげる。」
 そういう取引の元、一旦一次会を終えて散会した後、純子はその男子学生とホテルの一室に向かったのだった。その前に、早苗からは電話番号を記した紙切れを貰っていた。
 「アンタに気がある男子が電話番号を欲しいってさ。さっきまで意気投合してた真正面の男の子。この紙切れに電話番号を書いておいて。後で私が渡しておくから。」
 そう言って早苗に紙切れを渡したのだった。言われた早苗は天にも昇る思いだった。自分も気に入った男子学生が連絡先を教えて欲しいと言ってきたのだ。胸をワクワクさせながら自分の携帯電話の番号を記すと、こっそり純子に手渡したのだった。

 結局一次会が散会した後、純子は早苗の連絡先が知りたいと言ってきた男子学生とラブホテルの一室に行くことになる。セックスを終えた後に約束だからと所望された男子学生に純子が渡したのは、早苗が書いた電話番号メモの1にL字を足して4にし、3に字を書き足して8にしたものを渡したのだった。何も知らないその男子学生はその後何度も電話したし、その男子学生からの電話を心待ちにしていた早苗も待っていたにも関わらず一切電話は通じなかったのだった。
 純子は次の日に早苗に逢ってとどめをさす。
 「ねえ、早苗。あの男子から電話あった? そう、やっぱりね。貴方、あの男子に引っ掛かったのよ。最初から貴方に電話する気は無かったんだと思う。男子学生たちにはよくあるのよ。何人の女子学生から電話番号を貰えるか競うっていうのが。只のゲームなのよ、あの連中には。最初から電話する気なんかないの。引っ掛かりそうな女に気を持たせて聞き出してるだけ。」
 その純子からの説明にいたく傷ついた早苗だった。初めての合コンで期待していた相手だっただけにその痛みは大きかったのだった。

 「へえ、それじゃあ短大時代にたった一回しか行かなかった合コンで、気に入った男子に電話番号まで渡したのにその後で一切お付き合いもなかったというのね。」
 「ええ。私、バカみたいに期待して電話を待ってたんですけど結局一度も電話は掛かってきませんでした。友人が言うには、そういうのは男子同士で電話番号を幾つ貰えるか競っていたんだそうです。私、田舎から出て来たばかりでそういうのは全然知らなくて恥を掻いてしまいました。」
 「ふうん、そう・・・。そうかもしれないわね。」
 そう言いながら目の前の新人女教師の告白に、おそらくは友人の嘘に引っ掛かっただけなのだろうと気づいた稲葉教諭だった。
 「短大を卒業してすぐにこの高校に赴任というのは貴方にとってちょっと不幸だったかもしれないわね。なにせこの高校の男子教諭は妻帯者ばかりで、未婚なのはあのさえないオタク教師の落合君だけなのだからね。あ、でも貴方。あの落合君でも満更ではないかしら?」
 「え、いえ・・・。私は誰がどうとか、そういうのは・・・、全然考えてないです。」
 突然振られた落合という男性教師の事は思っても見なかっただけに何も即答は出来なかったのだった。

小俣早苗

  次へ   先頭へ




ページのトップへ戻る