妄想小説
田舎教師
四十四
「これでもう、大丈夫だと思います。今度こそ、痴漢を撃退してみせます。」
教頭の目の前で太腿の途中まで下げられた下着とストッキングを引き揚げながら、早苗も自信を持ってそう宣言するのだった。
早苗が出て行った後、教頭は独りごとを呟く。
(あの娘はどうも暗示に掛かり易い体質のようだ。オナニーをしながら別のことを考えたら感じる筈がないというのに。オナニーは自分自身が妄想を膨らますからこそ性的な興奮が得られるのだということに気づいていないようだ。和歌で痴漢の愛撫を感じなくなるぐらいなら世話がないというのに・・・。)
それから一本、電話を掛けるのだった。
「ああ、俺だ。またお前に一仕事して貰いたくってな。・・・。ああ、そうだ。あの女だ。・・・・。そう、同じ時間の同じ電話の筈だ。・・・。いや、そうじゃない。今度はちょっと注意が必要だ。・・・。ああ、その手筈を今から教える。」
電話の向うの相手に向かって適確な指示を与え終えるとゆっくりと受話器を置く。そして追い詰めた獲物は絶対逃さないという思いを込めて、にやりとほくそ笑むのだった。
その朝、以前に痴漢に遭った同じ時間の同じ電車に早苗は乗り込むことにした。前夜、何度も繰り返しイメージトレーニングも済ませてある。
(さっと両手で相手の手首を掴んだら、ぱっと振向いて手を上にあげさせる。)
その動作だけでももう何十回と繰り返し練習してきたのだった。
電車が一つ目の停車駅を過ぎたところで早苗はお尻の辺りに異変を感じる。
(来たっ・・・。)
練習通りだった。早苗は心の中でタイミングを図る。
(男の手がお尻の方に集中してきた時を狙うのだったわ。)
男の手は早苗のスカートを少しずつ手繰り上げ初めていた。男の指がストッキングの縁を探っている。
(今だわ。)
早苗はさっと両手を背中側に廻して男の手首を捉える。その瞬間、何故か自分の手首に冷たい金属の感触が走る。
(え、何・・・?)
両手でしっかり手首を握って放してはならないと言われていた。しかし、それが自分の両手を背中側で差し出してしまっていることに気づかなかった。もう片方の手首にも冷たい感触が走る。と同時に自分の両手の自由が利かなくなっているのにも気づいたのだった。慌てて掴んでいた男の手首を放してみる。が、すでに早苗はしっかりと後ろ手に手錠を掛けられていたのだった。
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