妄想小説
田舎教師
六十七
生徒達にスカートの下がどんな格好で立っているのか、ばれる筈はないとは思うのだが、自分自身もはっきりと観ていないで感触からだけしか判らない股に通された革の帯の自分の格好を、もしスカートを着けないで立たされていたらと、どうしても想像してしまうのだった。
終業のチャイムが鳴って、ほっと安堵の息を吐いた早苗だった。
(なんとか乗り切ったわ。誰にもばれなかったようだし・・・。)
教卓から出勤簿と教科書、チョークケースを取り上げると、そそくさと教室を出る。その早苗を廊下で待ち受けていたのは、授業開始前にも擦れ違ったばかりの落合教諭だった。
「小俣先生、今日の授業は終りですか。」
「え、ええ・・・。あの、何か・・・?」
「あ、いえね。何でそんな物を身に着けているのかと思ってね。」
「そ、そんな物って・・・。」
突然、目の前の落合教諭に言われて、早苗は狼狽える。スカートの中が透けて見えているのではないかと、思わず自分の下半身を検めてしまう。
(そ、そんな筈は・・・。)
しかし、落合は自分の言葉を早苗は勘違いするだろうことを予想して言ったのだった。
「私、ス、スカートの下に別に変なものなんか着けていませんわ。」
「え? スカートの下?」
思わず発した自分の言葉に、自分から『スカートの下』などと言ってしまったことに気づいて早苗は更に狼狽える。
「な、何でもありません。急いでいるので失礼します。」
そう言って、違和感のある股間をさりげなく抑えるようにしながら小走りに茂吉の前から走り去るのだった。その後ろ姿を見送る茂吉は、早苗が相当慌てている様子であるのを確信する。
コンコン。
「小俣です。小俣早苗です。」
「入りなさい、小俣君。」
教頭の声に身を竦めるようにしながら教頭室に入った早苗だった。
「どうだったかね?」
何について訊いているのか態と曖昧な言葉を選んで質問した教頭だった。
「あ、あの・・・。股間のものが気になってしまって。も、もう外してもよろしいでしょうか。」
「何だね。授業中もそれが気になって仕方なかったというのかね。」
「あ、はいっ・・・。」
「そんなんじゃ、まだまだだね。それを着けているのを何とも思わなくなるまで、もう暫く着けたままでいなさい。」
「ええっ? もしかして、これを着けたまま今日は帰るのですか?」
「一晩くらい我慢してみなさい。そうすれば平気で居られるようになるだろう。」
「それも訓練・・・なのですか?」
「決まっているだろう。」
早苗は処刑を宣告された囚人のような暗い気持ちになる。ふと脱ぎ捨てていったショーツとストッキングの事を思い出し視線を動かして探るが、確かここに置いた筈という場所には全く見当たらないことに気づく。
「あ、あの・・・。」
「まだ何かあるのかね? 今日はもう帰っていいよ。」
「そ、そうですか。」
教頭の宣告に依って、その日はもうショーツとストッキングを穿いて帰るのも許させないのだと知って教頭にそれらを返して貰うのを断念する。返して欲しいと申し出ることで、教頭がどこからかそれを取り出して手にすることも避けたい気持ちだったのだ。
「今日はこれで失礼します。」
教頭は早苗の方を見ることもなく、返事の代りに軽く頷いただけだった。
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