妄想小説
田舎教師
三十三
「最初は、お尻に何かを押し付けられているだけだったと思います・・・。そのうち、目の前の手摺りに男の人がつかまり、その腕に後ろから押し付けられたんです。」
「押し付けられた? 何を・・・。よくわからんな。立って、どういう事があったのかちゃんと説明してみなさい。」
「あ、はいっ。」
早苗は叱られている小学生のように首を項垂れて立ちあがると、教頭の前に立って背を向ける。
「最初はお尻を触られたと言ったね。どこの部分だね。」
「あ、えーっと・・・。この辺りです。」
早苗は背中の方に手を回して右の尻たぶの辺りを指し示す。
「この辺り・・・かね。」
教頭が早苗が示した部分に手のひらを当てたのが判った。
「こんな感じだったのかね。」
「あ、いえっ。手のひらじゃなかったと思います。もっと硬くて・・・。」
教頭は手のひらを返して指の関節を曲げるとその角を押し当てる。
「そんな感じだったと思います。そして電車が揺れた時に後ろから手が伸びてきて、私の目の前の手摺りを掴まったんです。ちょうどこの辺りで・・・。」
早苗は自分の胸のすぐ前を手で指し示す。
「こんな風にかね?」
「あ、はい。そして後ろから背中を押されて、その腕に押し付けられるようになったんです。」
「君の胸が・・・かね。」
「はい。最初はもう少し下でした。でもそれが少しずつ上の方にずれてきて・・・。私の胸を押し上げるようになって・・・。」
「で・・・?」
「そこから何とか逃れようと後ろに一歩下がったんです。そしたら今度はスカートの方に手が伸びてきて・・・。少しずつ裾を上のほうから捲り上げられました。」
「それをされるがままにしていたのかね。」
「手で抑えようとも考えたのですが、もう片方の手が胸元に伸びてきて・・・。ぶ、ブラウスのボタンを外しだしたのです。」
「服を脱がされそうになった・・・というのかね。」
「服を脱がされるというか、ブラジャーの中に手を伸ばされて・・・。」
「触られたのか。」
「そっちに気を取られていたら、今度はスカートの中に手を入れられて・・・。」
「君はそこまでされて、されるがままだったというのか。」
「あ、あの・・・。どうしていいか、わからなかったのです。電車がその時止まったので、無我夢中でそこから降りました。」
「それで学校に電話したと? その時、もう学校は休むと決めていたのか。」
「も、申し訳ありません。気がついたら、胸のボタンがひとつ千切れ飛んでいて・・・。そ、それに、スカートの・・・、ああ、お尻のところに沁みが付いていたんです。それでもうそんな格好では学校に行けないと思って・・・。申し訳ありませんでした。」
「呆れたもんだな。痴漢に遭ったぐらいで教師が学校を休んでしまうだなんて・・・。君は生徒を教える立場なんだぞ。いい齢をして。本当に今まで痴漢に遭ったことがなかったというのか。」
「あ、はい・・・。痴漢という言葉は知っておりましたが、実際にはどういうものなのかは。教頭もご存知かと思いますが、郷里には満員になるような電車は走っていません。こちらに来て初めてあんなすし詰めの電車があるのを知ったんです。」
「だって短大はこっちだったんだろ?」
「でも、短大は直ぐ近くの寮住まいでしたから・・・。通勤時間帯に電車に乗ることはなかったんです。電車自体が殆ど乗ったことがなくて・・・。」
「いちいち子供みたいな言い訳だな。君はとにかく自覚が足りない。隙も多いし・・・。仕方ない。君が一人前の教師らしくなれるまで、私が訓練をしてあげるからちゃんと付き従うんだぞ。いいな?」
「あ、はいっ。よ、よろしくお願い申し上げます。」
早苗はすっかり恐縮して教頭に向かって深々と頭を下げる。
「じゃまず、痴漢に遭った時に動じない冷静さを身に着けるところから始めよう。これをまた眼に着けるんだ。」
そう言って、教頭は以前にもミニスカートの立ち振る舞いの時に訓練につかったビロードの目隠しを手渡す。
「こ、これを着けるのですね・・・。わかりました。」
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