夜の嘆き

妄想小説


田舎教師



 三十五

 夜、アパートに戻った早苗はその日起きたことを振り返っては溜息を吐いていた。前の日に東京に出てきて初めて出遭った痴漢体験は、早苗に男性恐怖症を植え付けるきっかけとなった幼年期のお医者さんごっこと初潮で汚した股間を皆に見られるという経験を追体験させるような出来事だった。そのせいで学校を休んでしまったことを教頭に知られ激しく叱責されたのだ。考えてみれば、痴漢に遭ったぐらいで学校を休んでしまうのは教師としては失格だと言われても返す言葉がなかった。自分がずっと田舎暮らして普通の都会の女子中高生なら一度は体験するであろうことを大人になって初めて経験して気が動転してしまったのだと早苗は思う。
 (自分が何も知らない田舎育ちだったせいなのだ。)
 つくづく自分が情けなかった。そんな田舎者の自分を教頭先生が教師としてふさわしくなるように教育してくれるというのだ。
 (そんな訓練だった筈なのに・・・。)
 早苗は教頭の言葉を思い返していた。
 (あとで下着の裏側を触ってみなさい。)そう言われて教頭室を辞した後、教員用女子トイレの個室で下着を下ろして内側に触れて見た時に、その部分はじっとりと湿っていたのに気づいたのだった。
 (教頭の痴漢に堪える訓練で、私は感じてしまったのだわ。あの時、自分は気持ち良かったのではあるまいか・・・。)
 そう考えると、ますます自分が嫌になってくるのだった。

小俣早苗

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