妄想小説
田舎教師
三十二
そんな事態になって漸く早苗は押されて仕方なく身体が触れているのではなく、はっきりと意志を持って自分の身体を蹂躙しようとしているのだと気づいた。しかしその時には既にスカートは下穿き近くまでずり上げられ、ブラジャーまでも押し下げられて裸の乳房が露わになろうとしていた。最早声を挙げることは、自分の痴態を周り中に晒してしまう惧れがあるところまで追いつめられていた。
(い、いやっ。助けて・・・。)
そう何度も心の中で叫ぶのだが、それは実際の声にはならないのだった。
その時、再びガタンと電車が大きく揺れてブレーキが掛かり始めた。
「降りますっ。降りますので、通してください。」
早苗は肌蹴られた胸元の襟を掻き寄せるようにしながら開こうとしている扉に向かって突進したのだった。
その日、早苗は学校を休むことにした。途中の駅で一旦降りると駅前の公衆電話ボックスに飛び込んで学校に電話を掛け、日直で早出をしていた先生に身体の不調を訴えて休みを取ることを伝言して貰うことにしたのだった。休暇の届けを出して受話器を置いた早苗はあらためて胸元を見てブラウスのボタンが一つ千切れ飛んでいるのに気づいた。おそるおそる調べたスカートの後ろのほうには何かで濡れたような沁みまで付いているのだった。
(こんな格好では出勤することは出来ないわ・・・。)
片方の手で胸元の隙間を隠し、もう片方の手て鞄を押し当てるようにしてスカートの沁みを隠しながらアパートのある駅の方へ戻る電車に乗り込むことにしたのだった。
「で、どうして学校を休んだのかね。」
「・・・・。」
早苗は、日直で電話に出て呉れた先生に話した事を何故か教頭に話しても無駄な気がして口を開くことが出来なかった。
「私に嘘を吐いてはいけないよ。嘘を吐かれれば、君を庇うことももう出来なくなるだろうからね。」
(庇う)という言葉が早苗の心にずっしりと重く感じられた。
「君を駅で見た人がいてね。途中下車して反対方向の電車に乗っていったと教えてくれたのだ。」
それが誰だったのかは教頭は教えなかった。
「申し訳ありませんでした。実は・・・。」
「嘘を吐いてまで学校を休んだ理由をきちんと言いたまえ、小俣くん。」
早苗は覚悟を決めた。
「わ、わたし・・・。初めてだったんです。あんなこと・・・。電車に乗っていたら、すぐ後ろに男の人が居て・・・。」
電車通勤ではない教頭でも最寄駅を走る電車の朝の時間帯の混みようぐらいは知っている筈だった。そんな電車に後ろに誰も居ない筈はなく、すぐ後ろに男の人が居たというだけで事態は判るとまで考えた訳ではなかったが、それ以外に早苗にはどう説明していいか判らなかった。
「その男の人がどうかしたのかね。」
教頭は何が起こったかは薄々気づいているが態とそれを早苗に言わせるのだった。
「何かがお尻のところに押し当てられるのを感じました。」
「痴漢に遭った・・・というのだね。」
「そう・・・だと思います。」
「痴漢に遭った位で学校を休んだというのかね。何をどうされたのかはっきり説明しなさい。」
教頭の何時にない厳しい物の言い方に、早苗はびくっとして首を竦める。
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