妄想小説
田舎教師
六十八
早苗はいつもより少しだけ早目に学校を出ると、駅へ向かう。夕方の混み始める時間帯より前に電車に乗ってしまいたかったからだ。気持ちだけは急いているのだが、小走りになろうとすると股間に渡された革の紐が股に喰い込んでくるのだった。それを避ける為に慎重に一歩ずつ足を出そうとすると今度は妙に脚ががに股歩きになってしまうのだ。
それでも何とか駅までは辿り着くことが出来た。少し早い時間のせいか、ホームにはまだ誰も居なかった。それで股の喰い込みを少しでも直そうと試みる。
スカートの上からではどうにも革の帯が掴めないので仕方なく、辺りを見回して誰も見ていないのを確認してからスカートをすこしだけずり上げ喰い込んでいる帯を直そうとする。しかしスカートを穿いたままではどうにも上手く直せないのだった。
(ああ、早くアパートに帰ってこれを何とかしたい。)
そう思う早苗だったが、股間の違和感は感じまいとすればするほど余計に喰い込んでくるように思えてならないのだった。
(座ったほうが少しは楽かしら・・・。)
そう思って誰も居ないホームのベンチに腰掛けてみる。
座れば少しは楽になるかと思ったのだが、喰い込みは余計に強くなってくる気がするんだ。
「どうかしましたか、小俣先生?」
突然の声に、早苗ははっとする。見上げるといつの間にかその日何度も出遭った落合教諭が傍に立っているのだった。早苗は慌てて少し捲り上げていたスカートを直す。
「あ、何時の間にいらしていたんですか。落合先生。」
「ああ、いや。ついさっきからですよ。」
早苗はスカートを持ち上げていたのを見られたのではないかと不安になる。
「あ、あの・・・。」
「何でしょうか?」
「昼間、落合先生は何でそんな物を身に着けているのかと私に訊かれましたよね。あれはどういう意味でしょうか?」
「さあ。ご自分がよく御存じの筈ですが。」
「まさか、先生・・・。何かご存知なんですね。」
「まあ、私はいろんなことは知っていますがね。先生が教頭に調教されていることとか・・・。」
「ええっ。い、今、何て仰ったのですか?」
「聞こえませんでしたか。教頭に調教されているって言ったんですよ。」
「ちょ、調教・・・。あ、あの・・・。私・・・。」
「そんな物を着けて帰らされるなんて、普通じゃないですよ。」
「え、私・・・。あの・・・。」
「あ、電車が来ますよ。あれに乗るんでしょ? 私はその後の急行を待ちますので。」
「し、失礼します。」
早苗はもう落合教諭の顔を見る事も出来ずに、俯いてやってきた電車に飛び乗るようにして入り込んだのだった。電車が動き出しても、振り返って落合教諭の方を見るのが怖かった。頭の中ではさきほど落合教諭から聞いた謎の言葉が頭の中をぐるぐると廻っているのだった。
(教頭に調教されている・・・。どういう事なのだ。何故、落合さんはそんな事を・・・。)
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