妄想小説
田舎教師
六十
茂吉は今は教頭室となっている場所に何度か入ったことがあった。元々社会科準備室だっただけに、社会科の授業で使うものがまだその部屋にはいろいろ備えられていたからだ。世界地図が必要になった時に教務主任の稲葉教諭に聞いたところ、三脚付の大きなものが教頭室にあった筈と言われて貰い受けに行ったことがあったのだ。その際に、いろんなものが教頭室にはまだ残っていることに茂吉は気づいていた。それで一計を案じたのだった。
「あ、教頭先生。今度授業で縄文土器についてやるんですが、サンプル標本を教頭はお持ちではないですか?」
「ん? 縄文土器のサンプル標本・・・。ああ、たしか私の部屋のキャビネットの上の方にあったな。」
「それ、お借り受けしても宜しいでしょうか。」
「あ、今から校長会に代理で出るのだよ。忙しいんで、自分で取りに行ってくれ。あ、教頭室は鍵が掛かっているから、これを使いたまえ。欲しいものだけ取ったら直ぐにまた鍵を掛けて職員室の僕の席に鍵を返しておいてくれよ。」
「ああ、承知しました。どうも済みません。」
こうしてまんまと教頭不在の時間に普段は施錠されている教頭室の鍵を借り受けるのに成功したのだった。
茂吉の目的は教頭室に盗聴器を仕掛けることで、縄文土器のサンプルはそのカムフラージュだったのだ。教頭室の鍵を開け、目立たない書棚の上に盗聴器を仕掛けると言い訳にした縄文土器サンプルを捜す。キャビネットにも鍵が掛かっていたので鍵束からそれらしいものを見つけて鍵を開けて取り出すが、その時ふと閃いて別の抽斗もこの際だから調べてみようという気になったのだった。そして校長室然とした立派な机の抽斗を開けてみて、調教日誌と書かれた一冊の大学ノートを見つけたのだった。
(ん? 調教日誌・・・。なんだろう。)
おそるおそる抽斗の中からそれを取り出すとパラパラとめくってみる。
「え、これは・・・。」
中身は思わず茂吉が絶句するような内容が掛かれていたものだった。
コンコン。
「教頭先生。小俣です。」
「あ、小俣君か。入りたまえ。」
「失礼します。言い付けどおり、放課後になったのでやって来ました.。」
「いいつけ? 私は何も君にいいつけなどしておらんが?」
「あ、そうでした。失礼しました。自分から来たのです。前のように教頭に訓練をして頂きたくてやって参りました。」
「何の訓練かね?」
教頭の権藤は勿論早苗に来るように仕向けているのに恍けているのだが、それは早苗に自分からして貰いたくて頼んだのだと何度も刷り込ませて思い込ませるためだった。
「あ、あの・・・。私の普通ではない感情を矯正して頂く為です。」
「ああ、そうだったね。それじゃそこのソファに座りなさい。これは自分で着けるかね?」
そう言って教頭はいつもの目隠しを差し出す。
「あ、はいっ。」
早苗が目隠しを着けて自分の方には背を向けて後ろで両手を交差したのを確認してから机の抽斗から縄を取り出す。
「どうして欲しいのだね?」
「あ、はい。私を縛ってください。縛られると感じてしまうのを克服したいのです。それには教頭の矯正が必要なのです。」
「そうか。わかった。」
権藤は早苗が素直に自分から縛って欲しいと言う様になったのを、洗脳が一段階進んだとほくそ笑む。
「うっ。」
縄が両方の手首に喰い込むように締められると早苗はつい声を挙げてしまう。さらには胸元に回された縄が引き絞られる。両手の自由を完全に奪って、もう何も抵抗出来ないようにしてしまうと権藤は今度は精神的な責めにかかる。

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