妄想小説
田舎教師
七
「いいかね、小俣君。私がいいと言うまで決して背中の手を離してはならないよ。」
「え? あ、はいっ。」
早苗は教頭に言われて、背中で組んだ手にぎゅっと力を篭める。
「さあて。君は今、自分がどんな格好をしているか分かっているのかな。」
「え? ど、どんな格好って・・・。目隠しをして・・・、椅子に座って・・・います。」
「ふうん、そうかね。君は今日、どんなスカートを穿いてきたか覚えているのかね?」
「どんなスカートって・・・。あ、いやっ。」
慌てて膝に手をやろうとして、教頭からいいと言うまで背中の手を離してはいけないと言われていたのを思い出す。両方の腿を出来る限りぴったり合わせようとする。
「ふふふ。やっと自分のはしたない格好に気づいたようだね。どうだね。目隠しをしたままで、自分が穿いて来た短いスカートがどこまでずり上がっていて、その裾の奥に下着を覗かせてはいないか自信があるかね。」
早苗はそう言われて、今にも背中の手を振り解いて膝の上に置いて覗いてしまっているかもしれない裾を隠したかった。しかし教頭には手を言われるまで離してはならないと命じられているのだった。
「あ、あの・・・。も、もしかして・・・・。見えてしまっているのでしょうか?」
早苗には目隠しをするよう命じられ、その上両手を背中で組んで離してはならないと言われている。自分では出来る限り腿と腿をぴったり合わせて閉じているつもりなのだが、短いリクルートスーツの裾がどこまでずり上がっていて、ぴったりと閉じている筈の腿の奥に下着が覗いて見えていはいないのかどうか自信が持てないのだった。
「君はそれで見えてないつもりかね。丸見えだよ、君のパンツは。」
「えっ? あ、いやっ・・・。」
両手で膝を抑えて隠したいのに手は背中から動かしてはいけないと禁じられているので、身を縮こませようと爪先を立てて膝頭を上げた為に、却って裾の奥が余計に覗けてしまうのに気づいていない早苗だった。
「それじゃあ、余計に丸見えだよ。もういい。背中の手を解いていいよ。目隠しも取りたまえ。」
教頭の赦しを得て、さっと両手を膝の上に置いてスカートの奥を隠した早苗は、片手だけ膝から外しておそるおそる目隠しの帯を解く。
目が見えるようになると、思っていた以上にスカートの裾がずり上がっているのに気づいて慌てて両手で裾を引っ張るようにして出来るだけ太腿が隠れるように直す。
「君は今朝、始業式で檀上に上っていた時に、男子生徒たちにその格好でスカートの奥からパンティを何度も覗かせていたのに気づいていたかね。」
「え、そうだったんです・・・か?」
「教務主任の稲葉君に言われてイアリングを外した時と、マイクを渡された時だよ。あの時、生徒達のほうでどよめきが起きていたのを君は気づかなかったのか?」
「えっ、ま、まさか・・・。」
言われてみて初めて、早苗は膝の上に手を置いてガードしていたつもりだったのに迂闊にもそこから手を離していたことにやっと気づいたのだった。
「君は思春期で感じやすい男子生徒たちに、煽るようにはしたない格好を見せつけていたのだよ。君にそのつもりがなかったかどうかは関係ない。彼等がその格好を見せられて動揺したかどうかが問題なのだよ。それに、さっきは職員室でも男性教師等にも床に落ちた紙を拾いながらミニスカートから下着を見せ捲っていたと報告もあったのだよ。」
「ああ、教頭先生っ。私が迂闊でした。も、申し訳ありません。」
「君。何でもそうやって頭を下げれば済むっていうもんじゃないんだよ。君は私の同郷だったよね。同郷のよしみで何とかこの職場に採用出来るように取り計らってきた私の顔を潰したも同然なんだよ。君は人の好意をそうやって踏みにじるような真似をしたんだよ。」
「わ、わたしが・・・。とんでもない過ちをしでかしてしまいました。教頭先生には本当にお世話を掛けていたというのに、何て愚かだったんでしょう。何としてでもこの償いはするつもりです。」
早苗は何時の間にか申し訳なさに、椅子から降りて教頭室の床に膝を突くと、土下座の格好で教頭に向かって頭を下げていたのだった。
「まあ、いいでしょう。私にも貴女を特に推薦して採用したという責任があります。田舎暮らしが長かったので、都会の生活というものがよく分っていないという面もあるでしょう。私が責任を持って貴女を躾けます。故郷の恥になることがないように私が教育します。いいですか? いいですね。」
「わ、わたしからもお願い申し上げます。ど、どうか・・・、よろしくお願い申し上げます。」
新任教師がすっかり恐縮して頭を下げている姿を見て、教頭の権藤は思いの外首尾よく事が運んだと密かにほくそ笑んでいるのだった。
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