妄想小説
田舎教師
三
次の日、早苗は一張羅のリクルート・ミニスーツを着込んで入学式・始業式に臨んだのだった。
隣になった稲葉教諭から言われた(若い割りに華がない)という言葉にどうしたらいいのか皆目見当がつかなかった早苗は、短大時代に唯一関東圏地元の友人から褒められた自分で選んだイアリングを付けてみることにした。早苗に取ってお洒落という言葉で思いつくのはそれぐらいしかなかったのだ。
翌日の出勤はかなり早目に出たので職員室に着いた早苗はまだ他の職員が誰も出勤していないうちに、始業式の会場となる体育館兼講堂に出向くことにした。既に会場には生徒等が座るパイプ椅子が並べられており、そこから離れて隅に一列横向きに並べられている椅子が教職員の為のものだろうと思い、その末席に取り敢えず座って待つことにした。
「あ、ここにいらしたんですか。小俣先生。」
始業式の会場の下見にやってきた教頭の権藤は、教職員用に並べられたパイプ椅子の一番端に新任の教師が座っているのを見つけて近寄ってきた。
「あ、はい。教頭先生。様子が判らないものですから、早目に来ようと思ったんです。」
権藤はじろりと早苗の服装を上から下まで舐めるように眺める。しかしその格好については何も言わない。
「小俣先生は新任の紹介がありますので、檀上のあの席に座って頂きます。」
「あ、あそこ・・・ですか?」
早苗が講堂真正面の檀上を観ると、真ん中に大きな教壇があり、その脇にパイプ椅子が幾つか並んでいる。
「校長、教務主任、そして司会をする私が檀上に並びますので、小俣先生はその隣、一番右側の端に座っていてください。」
「そうですか。承知しました。」
早苗は教頭に言われた席に向かって壇上へと上っていくのだった。
次へ 先頭へ