縛ってみて

妄想小説


田舎教師



 五十四

 早苗は予め教頭から渡されていた縄を取り出してテーブルの上に置く。
 「さ、先生を縛ってみなさい。」
 早苗はくるりと男子生徒に背を向けると両手を後ろで組む。
 「先生・・・。いいの? 本当に。」
 初めて男子生徒が声を出したことに早苗は少し怯える。しかし教頭に言われたことをもう一度自分の胸の中で反芻する。
 (君があの生徒に縛らせてあげるのだ。そうして君も何も感じないし、生徒自身も女の先生を縛ったからといってとくに興奮もしないのだということを判らせてあげるのだ。)
 「さ、縄を取って私を縛ってみなさい。」
 男子生徒はおそるおそる縄を引き寄せる。
 男子生徒の手が早苗の手首を掴んだ瞬間に、早苗はどきっとする。
 (私は何も感じない・・・。いや、感じてはいけないのだわ。)
 手首に縄が巻かれていく。男子生徒は縛り方に戸惑っている風はなかった。そして生徒の手の力は思っていたより強いと感じられた。
 (縛るのに慣れている・・・? まさか。あの本を何度もよく見て研究しただけだわ、きっと。)
 両手を縛り上げて余った縄が二の腕と共に胸の周りに巻かれていく。
 (うっ・・・。)
 男子生徒が力を篭めて縄を引き絞るのに、思わず声を出してしまいそうになって早苗は慌てて唇を噛んで必死で堪える。
 (感じているような声を出してはならないのだわ。)

小俣早苗

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