妄想小説
田舎教師
四十六
結局、しゃがむだけでは手は鍵まで届かず、お尻をぺたんとホームの床に落としてやっとのことで鍵を拾いあげることが出来たのだが、男の子たちからはさんざんスカートの中の下着を覗かれてしまっていた。男の子らは目の前で女の人があられもない格好になっているのを訝し気に思いながらヒソヒソ話をし合っているのが早苗にもはっきり見て取れたがどうすることも出来なかった。鍵を拾い上げると、ホームの端の公衆トイレに走り込んで個室の中で漸く手錠を外すことが出来たのだった。スカートはお尻の部分が埃まみれだったが、それよりも股間部の沁みが恥ずかしくて人前に出れるような格好ではなかった。早苗は両手で股間を隠すようにしながら駅の改札を通り抜け、駅前の公衆電話から学校に電話をするのだった。
「いや、駄目だ。年次休暇を取るのは認められない。多少遅刻になっても学校に出頭すること。授業の方は代役を立てておくから、学校に着き次第教頭室まで出向きなさい。」
電話が教頭に取り次がれ、早苗は厳しく叱責を受けたのだった。
「それじゃ、君は痴漢を取り押さえようとしたのに逆に手錠を掛けられて何も抵抗出来なかったというのかね。」
「はい。教頭先生に教えて頂いたとおりに、痴漢の手首をしっかりと抑えるところまでは出来たんですが、その後まさかの事が起きて・・・。」
「そんなに都合よく、痴漢が手錠を準備していたなんてことがあるかね。俄かには信じがたいがね。」
「でも本当なんです。私、どうしたらいいか判らなくなってパニックになってしまったんです。それにスカートの前にまで沁みを付けられてしまって。もう学校へそのまま行くことも出来なくなってしまったんです。」
「で、手錠はどうしたんだ。見せてみたまえ。」
「て、手錠は家に置いてきました。」
「じゃ、汚されたというスカートは?」
「それも置いてきました。すぐに洗濯をしたかったんですが、教頭にすぐに学校に来るように言われたものですから、そのままにしてきました。」
「じゃ、明日。その手錠というのと汚されたスカートというのを持って来てみなさい。見てみないことにはちょっと信じがたいのでね。」
「わ、わかりました。明日、必ずお持ちします。ですから私のことはどうか信じてください。」
「まあ、それは明日見てからにしよう。それで、スカートを汚されたということはペニスを押し当てられたのだな。」
「え? ええ、そうだと思います。」
「そうだと思う? 見て確かめなかったのかね。」
「い、いえ。それは・・・。怖かったものですから。」
「怖かった? ううむ・・・。君は確か幼い時に父親が亡くなって、ずっと母子家庭で育ったと言っていたよね。」
「ええ、そうです。一番下の妹がまだ赤ん坊だった時期ですので、私は小学校入学前でした。」
「ということは、君はもしかして男性の性器そのものをちゃんと見た事がないのではないか?」
「え? 男性性器って・・・。勿論、ないです。」
「それは異常なことだとは思わなかったのかね。」
「い、異常・・・なのでしょうか。」
「当り前だ。普通の家庭では、子供は父親と一緒に風呂に入って男性器を見て育つものなのだよ。君にはそれがなかったせいで、いびつな感情を男性に対して持っているのではないのかね? 君は確か男性恐怖症のようなものを持っていたと言わなかったかね。?」
「あ、あの・・・。男性恐怖症は子供の頃からあったと思います。それが男性器を見たことがなかったことと関係があるのですか。」
「勿論だとも。ああ、なんともはや・・・。そんなことまで君を教育しなければならんとはな。」
「わ、わたし・・・。どうしたらいいのでしょうか。」
次へ 先頭へ