妄想小説
田舎教師
五十五
縛り終えたらしく、男子生徒が背中から一歩離れたのが気配で感じられた。早苗は縛られたまま生徒の方に向きなおる。
「どう? 縛ってみて何か感じた? 快感がする?」
生徒は早苗の真意を窺うような目つきをしたが、少し間を置いてから横に首を振る。
(良かった・・・。)
早苗も胸の内でほっと安堵の息を吐く。
「先生も縛られたからって何も感じないわ。わかったでしょ、もう。さ、もう解いて。」
「先生・・・。」
突然男子生徒が顔を挙げたのをみて、早苗は一瞬狼狽える。
「先生、キスしてもいい?」
「えっ・・・。だ、駄目よ。そんな事・・・。」
思いもかけない男子生徒の言葉に、早苗は激しく反駁する。縛られていて、抵抗出来ない身では唇を奪われたらどうなってしまうか判らなかった。
「キ、キスは愛し合っている者たちがすることよ。先生は貴方を愛してはいないわ。貴方だってそうでしょ。キスは君たち同じ年代の好きな人とするものなのよ。」
「そ、そうだよね。・・・。ごめん、先生。縄、解くよ。」
背中で縄が緩んでいく間、早苗は心臓の高鳴りを止められなかった。
(このまま生徒の気持ちが変りませんように・・・。)
最後の結び目が解けてするりと縄が床に落ちるのを見て、早苗は再度安堵の息を吐く。
「もう分かったわね。あんな写真はまやかしなのよ。作られた演技なの。・・・。今日の事は先生と君だけの内緒の秘密よ。わかった?」
生徒は返事をする代わりにペコリとお辞儀をすると生徒指導室を走り出て行くのだった。
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