ハリストス正教会

妄想小説


男女六人 卒業旅行



 九

 「まあ、あれね。本当に幾つもあるのね。」
 「そうよ、玲子。手前の緑っぽいのがハリストス正教会。ギリシャ正教の教会よ。その向こうの茶色っぽいのがカトリックの教会。その右側にあるのがプロテスタント系の日本基督教団の函館教会よ。」
 「ほんと、茉莉はよく研究してるわね。私もガイドブックは事前に読んでいたけど、そんなにすらすらっとは言えないわ。」
 知世が控えめにそう付け足す。
 「どこから廻っていく、茉莉?」
 「ねえ、皆んなに提案があるんだけど。教会だから、男女六人なんかでがやがや行ったら迷惑になると思うの。だから、男女二人ずつの三組に分かれて、それぞれ別々に廻ったらどうかと思うの。最後はここに集合って感じでね。」
 「え、茉莉。それって、男女のペアでってこと? ううん・・・。」
 急に男女二人でと言われて、玲子は躊躇する。
 「いいんじゃない。教会だから大人数で行くのは確かに迷惑かもしれない。いいよ、茉莉。」
 玲子の逡巡とは違って琢也は茉莉に賛同する。
 「じゃ、琢也は私と廻ってね。まずはカトリック教会から私たちは行くわ。」
 「え? そうなの。そ、それじゃあ・・・。」
 玲子は茉莉に機先を制されて、どうしようとまた逡巡する。その一瞬の隙をついて哲平が声を挙げる。
 「な、玲子。俺と一緒に廻ろうぜ。あの緑と白の教会からはどうだい?」
 「えっ、それは・・・いいけど。」
 「じゃ、決まりな。」
 哲平はこんな機会でもなければ玲子と二人っきりで歩くなんてチャンスはそうそう巡っては来ないと思っていたのだ。それだけ哲平にとって玲子は高嶺の花的存在だったのだ。
 「っていうことは、知世。お前は俺とだな。いいかい。」
 「駄目なんてことはないわよ。優弥こそ、わたしなんかでいいの?」
 「そんな自分を卑下するなよ。一度お前ともゆっくり話してみたかったんだ。じゃ、俺たちは何て言ったっけ。何とか教団の教会。そいつから行ってみようぜ。」
 「日本基督教団の函館教会ね。うん、じゃ宜しく。」
 六人はそれぞれ二人ずつに分かれてそれぞれが決めた教会に向かって歩き始める。

知世

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