哲平と知世

妄想小説


男女六人 卒業旅行



 二十五

 「ああ、いい風っ・・・。気持ちいいわ。」
 「俺もここ、座るわ。・・・。なあ、知世。俺たち、結構長いよな。」
 「そうね。小学校の時からずっと一緒だったからね。高校からは別々になっちゃったけど。」
 「高校とか大学とかでさ・・・。好きな人とか、出来たり・・・した?」
 「え、ううん。そんな人、居ない。」
 「だよな。」
 「何、そのだよなって。まるで私には好きな人は出来っこないみたいな言い方じゃない。」
 「あ、いや・・・。そういう訳じゃなくてさ・・・。あのっ。」
 哲平が意を決して背中から廻した手を知世の肩にかけようとする。その手が知世に触れた途端に知世が身体をびくんと震わせる。
 「あ、ごめん。何か、肩に止まってたから。虫かな・・・?」
 「え、いやっ。虫・・・、苦手なの。」
 「あ、大丈夫、大丈夫。今、払ったから。どっか行ったみたい。」
 (しまった。しくじった。本当は一気に引き寄せてキスするつもりだったのに・・・。)
 (哲平ったら・・・。私を抱いて呉れるつもりじゃなかったの。期待してたのに・・・。)
 「なんか・・・、俺たちってさ。あれだよな・・・。」
 「え、あれって・・・?」
 「知世さ。あのさ・・・。俺っ。」
「もう・・・。いいわ、してっ。」
 哲平の意気地の無さに嫌気が差した知世は、いきなり目を瞑って唇を尖らす。
 (え、そ、それって・・・。い、いいのか・・・。)
 哲平がもう一度、知世の肩に手を掛けようとしたその時だった。
 「おーい、哲平っ。まだ、そんな所に居たのかぁ・・・。」
 遠くから聞こえてきたのは間違いなく優弥の声なのだった。
 (ん、もう・・・。全く・・・。本当に哲平って間が悪いんだから。)
 知世にも優弥たちが近づいて来る声が耳に入ったので、ぷいっと知世も立上る。
 「茉莉ーっ。ここよーっ。」
 真正面に漕いでいるのは間違いなく茉莉の姿で、その後ろから優弥の顔が垣間見えるのだった。

 「あ、イタタタ・・・。ね、ご免。琢也、ちょっと止まって。」
 「どうした、玲子。」
 突然の悲鳴のような声に、琢也はタンデム自転車にブレーキを掛けると後ろを振り返る。玲子が苦痛に顔を顰めて、膝の下辺りを擦っている。
 「あ、足が攣った。普段使ってない筋肉だからかな。あ、痛たたた。」
 「ちょっと待って。ハンドル、しっかり握ってて。」
 琢也は玲子に後席のハンドルでタンデム自転車を支えさせておいて、自分はひらりと自転車から降り立つと、玲子の後ろに廻る。
 「そのまま、ハンドル離していいから自転車を前に倒しちゃって。」
 自転車が二人の目の前にガシャーンと音を立てて倒されると、琢也は背中側から片手を玲子の脇の下で支え、もう片方の手で玲子の脚を膝のところで抱えてお姫様だっこの形で持ち上げると近くの柔らかい草が生えている場所まで運んでゆっくり降ろす。
 「こむら返りだな、こりゃ。ちょっと待って。すぐ楽にしてあげるから。靴、脱がすよ。」
 琢也は玲子と向き合うような位置に自分も腰を降ろすと、痛がっている方の脚を片手で抱えて持ち上げると、もう片方の手で靴を脱がした足の先を掴んでぐいと反らせる。
 「あ、うっ・・・。す、凄い。楽になったわ。」
 「そのまま暫くじっとしてて。だんだん収まってくるから。」
 琢也は上向きに反らせた足の先を固定したまま、もう片方の手でぱんぱんに張っているふくらはぎを優しくマッサージしながら揉みほぐす。玲子は茉莉に借りたというホットパンツで生脚を大きく晒している。その足に直接手が触れるので、琢也は温かく柔らかい玲子の生肌の感触を新鮮に感じる。揉みほぐされている方の玲子も男性に生の肌を触られているのに、その心地よさに全てを任せたいような気分になってくる。
 「太腿の方もマッサージするよ。脚全体の神経が張り詰めているので、それをほぐさないと。」
 そう言ってふくらはぎの手を肌を擦りながら膝の後ろ側からむっちりした太腿のほうへずらしていく。緊張していた筋肉がマッサージしていくにしたがって弛緩して柔らかさが戻ってくる。
 (ああ、男性にこんな場所を触られているのに、何て気持ちいいの。)
 玲子は琢也に触れられる心地よさに、頭の中が朦朧としてくる。
 「痙攣は収まったみたいだね。ゆっくりと自分で脚を曲げてみて。」
 (あ、まだ手は離さないで・・・。)
 そう言えたらどんなにいいだろうと玲子は一瞬考える。代わりに琢也は腰の位置をずらして玲子の直ぐ横に移ると背中を抱きかかえるようにして脚を曲げ伸ばしする玲子が倒れないように支えるのだった。
 「いいよ、慌てなくて。ゆっくり曲げ伸ばしを繰り返して。ついでにちょっと休んでいこう。」
「ありがとう、琢也。痛みがどんどん取れていく。」
攣ってしまった脚から手を離すと、玲子はその手を背中を支えてくれている琢也の手の上に重ねる。
 「少しこうしてていい?」
 「ああ。」
 手のひらを重ねられた琢也の手に少しだけ力が篭められると、ぎゅっと抱きしめられたような感触を玲子は感じる。身体の中心が熱く滾ってくるような気がしてくる。

知世

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