妄想小説
男女六人 卒業旅行
二十三
「なあ、知世・・・。」
「え、何?」
「あのさあ、お前って・・・。」
「うん。何?」
「あ、いや。何でもない・・・。また、後で。」
「うん。」
哲平は(お前、まだ処女なのか?)と言い掛けて寸でのところで言葉を呑みこんだのだった。
(幾らなんでもそんなこと、このシチュエーションで訊くのは失礼だよな。)
しかし哲平の心の中にはまだムラムラとした気持ちが収まっていなかった。
「ねえ、琢也。前の二組。もう姿が見えないんじゃない。」
「ああ、そうみたいだな。ちょっと出遅れたかな。」
「ごめんね。私があんまり体力ないもんだから。」
「別に急ぐ必要もないから、いいさ。のんびり行こうよ。」
「琢也は優しいのね。」
「いや、別に。一生懸命漕ぐと僕も疲れるしさ。」
「ねえ。昨日の教会巡りの時、茉莉と一緒だったでしょ。どんな事、話してたの?」
「え・・・。い、いや・・・。別に、大したことは話してないよ。えーっと、何だったっけな。」
一瞬、懺悔室での事を思い出して琢也は狼狽えてしまう。
(何か話を思い出さないと、怪しまれてしまうかも・・・。)
そう思って焦るのだが、焦ればあせるほど、会話の内容は思い出せない。
「哲平は、琢也と茉莉のことをかなり気にしてたみたい。ハリストス教会に入れないって分ったら、じゃあ琢也たちの方を追い掛けようって言うんだもの。」
「そう・・・だったんだ。あそこ、結構雰囲気は良かったんだけど。何か、あまりに静かで・・・。何か会話が途切れちゃったりすると、気まずい感じになって、それですぐに出たんだ。」
琢也は咄嗟に出まかせを言う。しかし、実際には懺悔室の扉の一枚向こう側に玲子たちが歩いていくのを感じて、気づかれるのではとひやひやしていたのだった。
「そうよね。何か、恋人と二人だけでそっと歩くって感じの雰囲気だったわね。私と哲平でも似合わない感じがして、早々に私たちも出たのよ。」
「そう・・・だったんだ。」
思わず(それはよかったね)と言いそうになって、何か違うと慌てて言葉を呑みこんだ琢也だった。
「茉莉、あとの連中が見えなくなってから随分経つから、あそこの見晴らし台みたいなところで少し止まって奴等を待つことにしようか。」
「いいわよ、優弥。」
「じゃ、ここに停まるぞ。」
「あ、待って。後ろ見ないで。」
「おい、降りるならちゃんと停まってからにしろよ。あ、危ない。」
茉莉が自転車から降りるのに、ミニスカートの中を覗かれないように先に飛び降りようとしたのでタンデム自転車は大きくバランスを崩す。
ガシャーン。
優弥はなんとか自転車から飛びのいたが、茉莉の方は降り損ねて自転車もろとも転倒してしまう。
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