妄想小説
男女六人 卒業旅行
十五
「さあ、着いたぞ。哲平たちはまだかな?」
「すぐ来るわよ。ね、まずはタワーの上からどんな感じなのか見てみましょうよ。」
「あ、ごめん。私、ちょっとおトイレ寄ってきていい、茉莉っ。」
「あら、いいわよ。ねえ、琢也。大丈夫よ。こんなところで迷いっこないから。先、入ってましょうよ。」
茉莉は琢也の腕を取るようにしてタワーの登り口のほうへ引っ張って行く。
「あ、ちょうどエレベータが降りてきた。早くっ。」
他に誰も乗り込もうとしていないのを確認すると、茉莉は琢也をエレベータの中に押し込む。さっと外を見ると、トイレから知世が出てくるところだった。それに気づきながら茉莉はさっとエレベータの閉ボタンを押してしまう。
「知世のこと、待ってなくて大丈夫かな・・・。」
「あら、大丈夫よ。子供じゃないんだから。それより、さっきの続きしましょ。」
そう言って茉莉は琢也のすぐ傍の庫内の壁にぴったりと背中を付けて目を瞑る。琢也も庫内には茉莉とたった二人なのを改めて自覚すると、エレベータの表示をみる。エレベータがゆっくりと上にあがっていくのを確認すると茉莉のほうに向きなおって茉莉の肩の上にドンと手を付く。
「茉莉・・・。」
(こういう時は、男のほうがちゃんとリードしなくっちゃ・・・。)
教会の時は、茉莉に引っ張られぱなしだった琢也は今度こそ自分が主導権を取らなければと唇を近づけていく。
ゴン。
鈍い音がしたのは、琢也が自分のおでこをエレベータの壁にぶつけたからだった。
(あれっ・・・。)
いつの間にか茉莉は琢也の前を擦り抜けてエレベータの反対側の隅に移っていた。ちょうどその時、エレベータは最上階の展望台に到着して扉が開いたのだった。
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