ラブホ看板

妄想小説


男女六人 卒業旅行



 三十三

 「取り敢えず、車一台でそこまで行ってみて電話を貸して貰ってレッカーを頼んでみようぜ。もし今日中に来てくれないとなったら、そこで一泊だ。」
 優弥の言葉に哲平と琢也は顔を見合わせる。
 「ラブホでか?」
 「仕方ないだろ。この山奥の闇の中で、一晩過ごすよりゃマシだろ。」
 優弥はラブホテルの宿泊経験もあるらしく事も無げに言うが、ラブホテルに入ったこともない哲平と琢也は躊躇してしまう。
 「ここでじっとしてても埒が明かないからな。俺と哲平の二人であっちの車でまず行ってみるから、琢也は女の子三人とこの車ん中で待っててくれないか。女の子たちだけでここに残すのは心細いだろうからな。」
 「わかったよ、優弥。女の子たちを連れてくる。」
 そう言うと、女だけで待っているもう一台の車のほうへ、向う琢也だった。

 「じゃ、頼んだぞ。優弥、哲平。」
 「ああ、女子のことは琢也に任せたからな。」
 哲平は優弥が運転する車の助手席に乗り込むと、さきほど通り過ぎたラブホテルに向かって走ってゆくのだった。
 優弥たちが走り去ると琢也は玲子と知世を傾いた車の後部座席に乗せ、自分は茉莉と前の座席に座る。一旦はエンジンを停め、ライトを切ったのだが、真っ暗闇になることに気づいてエンジンを掛け直し、ライトも点燈させたままにすることにした。辺りはしいんと静まり返っている。
 「何か怖いわね。ここ・・・。」
 一番怖がりな知世が不安げに言うのを、玲子が肩を抱いてやっている。しかし玲子とて不安で堪らない。
 「こんな場所に夜、ひとりで居たら堪らないわ。」
 玲子が言うのに、前の席から茉莉が振り向いて答える。
 「二人だって、三人だって嫌よね。こんな場所にじっとしてるの・・・。」
 「あ、あれ・・・。何かしら。」
 玲子が何かに気づいて声を挙げる。茉莉が玲子が指差す方向に振り返ると何やら二つの物が光ってみえた。
 「きゃっ。動いたっ・・・。」
 茉莉もその何かに気づいて大声を挙げて隣の琢也にしがみつく。

光る眼

 「大丈夫。あれは鹿か何かだよ。いるんだな、こんな所に。」
 琢也が冷静に答えると、その光る眼と黒い影はゆっくり闇の中に消えていった。
 「やっぱり嫌だわ、わたし。こんなところにずっと居るの・・・。」
 いつもは気丈そうな茉莉も不安げにそう洩らす。
 「大丈夫だよ。すぐにあいつらも戻ってくるさ。」
 慰めるようにそう言う琢也も何のあてがある訳でもなかった。

 やがて車の音が山の中に響いてくるのが聞こえてきた。
 「あ、あいつらだ。」
 琢也が目を凝らすとヘッドライトが近づいてくるのが見えた。しかし戻ってきたのは優弥一人なのだった。
 「どうした、優弥。」
 「ああ、やっぱり駄目だ。もう店が閉まっちゃってるんで今夜はレッカーは出せないそうだ。明日の朝になるって。あそこに一晩泊るしかないだろう。車に六人は乗り切れないから哲平は向こうに置いてきた。さ、皆んな。こっちに乗ってくれって。」
 「そうか。わかった。」
 琢也もエンジンとライトを切って車を降りる。女性三人を後部座席に詰めて座らせてから、琢也も助手席に乗り込む。
 「優弥。いいぞ、出してくれ。」
 五人を乗せた車が闇の中に再び滑り出す。

茉莉

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