夜のラブホ

妄想小説


男女六人 卒業旅行



 三十四

 「こ、これって・・・。」
 やっと明りが点いた場所に到着したところで知世が不安気に声を挙げる。
 「そう。見ての通り、いわゆるラブホってやつ。ここしか電話も泊る場所もないって事。」
 優弥がそう説明しているところに暗がりから哲平が走って来るのが見える。
 「やっぱり三人で泊まれる部屋はないそうだ。それにこういう所だから男同士、女同士で泊るってのもちょっと・・・。それに少なくとも誰かは男女で泊るしかないしな。だから、ここは公平に二人ずつ男女で泊ることにするしかないから。」
 「え、男女で・・・?」
 知世と玲子が同時に同じ声を挙げた。
 「だって俺ら、もういい齢の大人だろっ。ラブホくらい、別に泊れるだろ。したくなけりゃ何もしなくていいんだし。二人が合意なら、それこそ二人で好きにすればいいだけのことさ。」
 「えーっ?」
 「わたしはいいわよ。あんな獣が居る山の中で一晩過ごすぐらいだったらこっちの方が全然マシだわ。平気よ。」
 茉莉の強気の発言に玲子と知世は顔を見合わせる。
 「でも、どうやってペアを決めるの?」
 「誰と誰が一緒になりたいとか言い出すと揉めるから、ここは公平に籤にしようぜ。ほら、もうアミダくじ作ってある。ここに女三人とも名前を書けよ。」
 そう言って端の方が折り込んである紙切れをボールペンと共に女三人に差し出す。折り込んである部分からは三本の線だけが伸びている。茉莉が最初に受け取ってさっと名前を記すと、後の二人も仕方なさそうに名前を書き入れる。それを哲平が受け取ってラブホの看板から洩れている光に翳しながらアミダを辿っていく。
 「決まった。優弥は・・・、茉莉と。琢也は・・・っと、玲子。そして知世は俺とだ。」
 意外な組み合わせだった。暫くお互い同士、顔を見合わせている。
 「ちょっと待って。その組合せって、昨日のサイクリングの時とおんなじじゃない? 何か偶然にしては出来過ぎじゃない?」
 異議を唱えたのは茉莉だった。
 「や、偶々だろ。な、琢也。」
 「あ、まあ・・・。男三人と女三人の組合せ問題だから。えーっと、三掛けるニで六通りかな。サイコロの目と同じだから二回続けて同じ目が出ても不思議じゃないかも。」
 「え、どうして三掛けるニなの?」
 玲子が不思議そうに琢也に訊く。
 「だって、例えば優弥には女三人が均等に当たる可能性があるだろ。だから三通り。そして優弥と相手が決まってしまうと、次の哲平には女子が二人残るから二通り。最後の僕はもう女の子が一人しか残らないから組合せの選択肢はない。だから三掛けるニだろ。」
 「なあるほど。琢也はさすがに理系だから頭がいい。計算が早いな。知世、計算合ってる?」
 「ええ、順列組合せ問題だからそれで合ってる。」
 「でも、本当にそうなの? ね、アミダくじ。もう一度私に見せて。」
 「え、でももう破いて捨てちゃったよ。終わったと思ったから。」
 哲平は済まなそうに紙屑になって散らばった紙を放り投げた藪の方を指差す。
 「もう一回、ちゃんと皆んなに見せた上でくじを遣り直しましょうよ。もし今度も同じ目が出てもサイコロと一緒だから納得するから。」
 茉莉がそう言い出すと、玲子も知世も反対出来ない。反対すれば玲子は琢也と、知世は哲平と一緒になりたいと表明したことになってしまうからだ。
 「わかったよ。作り直すから。もう一回だけだぞ。」
 そう言って哲平がポケットから手帳を取出し一枚破くと、再びアミダくじを作り直す。
 「じゃ、もう一回。これに名前書いて。」
 今度も茉莉から順番に女性三人が自分の名前を書いてゆく。
 「じゃ、今度は私が結果を観るわ。貸してっ。えーっと・・・。優弥は・・・っと、玲子。琢也は・・・えーと、知世ね。すると私は、哲平ってこと? 間違ってないか、玲子確かめてみて。」
 紙を渡された玲子が先を辿っていく。
 「確かに。間違いないわ。」
 それは意外な結果だった。皆が夫々にさっきの結果の方が良かったと思いながらも口には出せないでいたのだった。
 「じゃ、明日の朝な。」
 ラブホテルの狭い廊下で三組に別れると、夫々の部屋に向かって二人ずつが別れ別れになるのだった。

茉莉

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