妄想小説
男女六人 卒業旅行
六十
「あれが湿原展望台か。」
駐車場に辿り着いた優弥は目の前の階上に展望室を介した建物を見上げて言う。
「入って見ましょうよ。」
茉莉も頷いて優弥の腕を取る。
建物の内部はまるで西洋の教会のようだった。吹き曝しの天井からは二階部分の広く取られたガラス窓から明るい日差しが差しているが、堂内は教会の建物のように薄暗く、人影もまばらだった。二階の展望台にあがってみるが、そこにも観光客の姿はなかった。
「ねえ、優弥。私を誘ったのは、琢也に近づけない為でしょう。」
「別にそういう訳じゃねえよ。」
しかし、優弥にも琢也と玲子の仲をなんとかしたいという気持ちはあったのだ。
「わたし、琢也ともしたのよ。」
それは茉莉の優弥に対する(あなただけしか居ない訳じゃないのよ)ということを示したい茉莉なりの精一杯の見栄だった。
「そんなことはわかっているさ。」
「平気なの、優弥は?」
「俺は処女がどうこうとか、童貞がどうのこうのなんてどうでもいいと思ってるからな。」
「大沼のボートの上でもしたし、襟裳岬でもラブホテルに誘われたの。」
「ふうん。でも、琢也はなびかなかったんだろ?」
優弥の言葉は茉莉の心にぐさっと突き刺さった。無言でしばらく言葉が出なかった茉莉のまなじりに熱いものが浮かんだと思う間もなく、茉莉は泣きじゃくり始めた。
「車へ戻ろう。」
優弥は思いっきりの優しさで茉莉の肩を抱くと、駐車場へと導いていったのだった。
「待って。車を停めて。」
湿原展望台の駐車場から優弥が車を出してすぐに、茉莉が車を停めさせる。
「あっちの方の道へ行って。」
茉莉が指し示す方の道は、見るからにすぐに行き止まりになりそうな湿地への脇道だった。灌木が生えている場所の裏手に優弥が車を停めるなり茉莉が抱きついてくる。
「お願い。いま、して・・・。」
茉莉の声は掠れそうなほど震えていた。
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