分かれ道

妄想小説


男女六人 卒業旅行



 六十三

 山道はあまり得意でない哲平は、琢也の車からはどんどん引き離されているようだった。
 「ちきしょう。琢也のやつ、結構飛ばしてやがるな。あ、まずい。」
 哲平が大きな声を出したのは、車がY字路に差し掛かってしまったからだった。
 「どっちだろう。参ったな。」
 咄嗟に玲子はデジャブを感じて思いを巡らす。
 (あの時、メモにあった右というのを信じて進んだら琢也に出遭えなかったのだわ。)
 「左よ。きっと、左だわ。」
 「そうか。玲子が言うんならそうなんだろう。左へいくぜ。」
 しかし、玲子の勘は間違っていたのだった。道路はだんだん狭くなってゆく。
 「全然、追いつかないなあ。琢也、ほんとうにこっちに来たんだろうか。あ、まずい。」
 突然の素っ頓狂な声に玲子も哲平の方を振り向く。
 「やばい。ガソリンがもう殆ど無い。」
 哲平は襟裳岬で琢也たちと合流した時に、琢也が給油に行っていたというのを思い出していた。あの時、自分たちも給油しておくべきだったのだ。
 車が止まってしまったのは、それから直ぐだった。プスンという音と共にエンジンが止まってしまうと、それからはうんともすんとも言わなくなってしまう。
 「まずいな。暗くなる前にガソリンスタンドを捜さなきゃ。玲子、仕方ない。歩こう。」
 哲平と玲子は車を乗り捨てることにして、登ってきた山道を歩いて降りることにしたのだった。

 「茉莉、さっき車の音がしなかったか?」
 「あ、優弥。大変。琢也が車で飛び出して行っちゃって。それを哲平と玲子が追い掛けていったの。」
 「何だって・・・。じゃ、車は二台ともないってことか。それじゃ、追っ掛ける訳にもゆかないな。」
 「なんか琢也が玲子の言葉に逆上したみたいなの。」
 「玲子の? お前が何か言ったんじゃないのか?」
 「わたしは琢也に玲子を宥めるように言っただけ。そしたら琢也が玲子に話しをしに行って。そこから先はわからないわ。」
 「玲子を宥めるって、どういう意味だ?」
 「玲子が襲われて処女を喪ったことで、琢也とはもう一緒になれないって思ってるみたいだから、そんな事はないって言ってあげなって言っただけよ。」
 「お前、そんな事言ったのか。それじゃ、琢也が自暴自棄になっても無理ないな。」
 「え、私が悪いの? 何よ、処女かどうかで女を好きになれなくなるなんて・・・。最初から愛してないってことじゃないの。」
 「お前にとってはそうかもしれないけど、玲子は違うんだよ。皆んな、お前と同じだと思うなよ。」
 「もういいわ。聞きたくない。ちょっと頭、冷してくる。」
 そう言うと、茉莉は優弥を置いて一人で立ち去ってしまう。
 「おい、何処行くつもりだよ。茉莉っ・・・。参ったな。車無しじゃ追い掛けることも出来ないしな。」 
 二台の車が何時戻ってくるか分からないので、優弥は知世が一人で待つロッジの中でとにかく待つことにする。

茉莉

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