妄想小説
男女六人 卒業旅行
四十一
「最初は私に漕がせてね、琢也。」
そう言って乗込んでそうそうにオールを取り上げる茉莉だった。ボート漕ぎでもミニスカートのままなので、琢也はハラハラする。しかし茉莉は足元にバッグを置いて微妙に裾の奥を隠している。
「少し遠くまで行きましょうよ。」
「ああ、いいけど無理すんなよ。いつでも漕ぎ手は替わるからな。」
琢也はボートのともの方に座って、見えそうで見えないミニスカートの奥を気にしながら茉莉が漕ぎだしていくのに任せていた。
「それじゃ、俺たちもそろそろ行くか。玲子、大丈夫か?」
「大丈夫よ。どうして?」
「ゆうべはあんまりよく眠れなかったみたいだからさ。」
優弥が言うとおり、傍に男性が寝ていると思うだけで何度も起きてしまった玲子だった。その度に優弥はすうすう寝息を立てているのでぐっすり寝込んでいたのだと思っていたが、よく眠れなかったのに気づいていたのだと玲子も気づく。
(優弥も結構目覚めていたのかもしれないわ。)
しかし、そう訊いてみるのはやめておくことにしたのだった。
「ちょっと休憩しようか。」
「え、もう? さっき体力なら任しておけって言ってたくせに。琢也たちも優弥たちも結構遠くまで行っちゃったわよ。」
「なあ、知世さあ。俺たちは俺たちでいいじゃないか。あいつらの事、追っ掛けなくても。」
「別に追っ掛けろなんて言ってないわ。いいわよ。どうせゆうべあまり眠れなかったんでしょ?」
「そ、そんな・・・。お前はどうなんだよ。」
「私はぐっすり眠れたわよ。」
「じゃ、何もなかったのか。」
「どうして、そう思うの? すること、したから眠れたって思わないの?」
「え、そう・・・だったのか。琢也のやつ。あんな澄ました顔しやがって。」
「琢也はとても紳士的なひとよ。決して一人で舞い上がったりしないし。」
「え? 舞い上がるって、俺のことか?」
「茉莉と一緒で、哲平が冷静だったなんて思えないもの。」
「うっ。そ、それは・・・。」
知世に全て見透かされている気がして哲平は二の句が継げななかった。
「男女の事は、外部の人が詮索すべきじゃないわ。」
「いや、詮索しようと思った訳じゃ・・・。わかったよ。だったらお前も俺のことは詮索するなよ。」
「何をそんなに意気がっているの。詮索なんかしないわよ。」
知世は長年、哲平と付き合ってきているので哲平のことは手に取るように判るのだった。その様子から茉莉と同室で何とか茉莉と結ばれようと画策したけれど、上手くゆかなかったのは見え見えだった。茉莉のことだから哲平はいいように手玉に取られたのだろうと思った。それに知世には茉莉が哲平としたがっているとは全く思えなかったのだった。
(そう言えば優弥は同じ部屋だった玲子と一緒の筈だな。何処まで行ったんだろう、あいつら。何でも卒なくやる優弥だからきっと玲子もものにしたんだろうな。そう言えば、あいつ玲子の事、タイプじゃないだろって言ったら、そんな事決めつけるなって言ってたっけ。もしかして最初からあいつ、玲子の事。狙ってたんだろうか。だとしたら・・・。ああ、出来なかったのは俺だけか。)
哲平はあらためて目の前で涼しい顔をしている知世のことをまじまじと見つめる。
(ああ、これで知世に筆おろしさせてくれって頼む目も無くなったな。あの誰にでもさせそうな茉莉とさえ出来なかったんだから。「え、まだ童貞なの? 茉莉ともさせて貰えなかったの?」って言いそうだなあ。)
「ねえ、どうしたの。そんな浮かない顔をして。」
哲平の思いをよそに、知世は(せっかく二人っきりなんだから、キスぐらいしなさいよ)と言えない自分の意気地なさを情けなく思っているのだった。
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